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自分なりに質を高めるために、間をかける必要があると思っています

――『俺俺』は映画化されて、『夜は終わらない』で読売文学賞を受賞されて、『呪文』も今たいへんな評判で…と考えると、いい方向にいっているように思います。もちろん、それ以前の作品もすごく好きですが。

夜は終わらない

星野 智幸(著)

講談社
2014年5月23日 発売

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星野 気分的に開き直ってみたところ、ひとつ上のステップに行けたというのもあるし、それまでの10年、いろんな枷を自分に嵌めて、それを突破しようとしてもがいたことが実ったとも思うんですよね。

 枷がなくなったから自由になったんじゃなくて、枷を何とかしようと格闘し続けたから、自由度が広がったんだと思います。枷を外してもいい時期にちょうど、枷を外せたんだと思います。

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 一応あの10年で新人時代は終わったと思えたので、『無間道』の時から、もう本当に書きたいものを書きたいようにしか書かないと決めたし、ひとつの作品にたっぷり時間をかけることにしました。外国の作家に会うといつも、「日本の作家はなんでそんなにせわしなく書いているんだ」と言われるんです。僕もそう思う。ガルシア=マルケスだって5年や7年かけて一作を書いていたわけですよね。それじゃなきゃ、あんな作品は書けない。自分なりに質を高めるためには、やっぱり時間をかける必要があるなと思っています。

――確かに2007年『無間道』、2010年『俺俺』、2014年『夜は終わらない』。小説の発表は間があいていますね。去年『夜は終わらない』が読めて、今年『呪文』が読めたことは読者にとっては僥倖だったのか(笑)。

星野 大きな作品を立て続けにふたつ出したので、だから今、ヘロヘロになっているんですよ(笑)。

――今後はどうぞゆっくりお書きくださいと言いたいところですが、読者としては4年も待ってられないんですが(笑)。

星野 4年なんてワールドカップ1回分だから、短いですって(笑)。今はできるだけ執筆のことは考えないようにしているんです。ちょっと無意識を休ませる時間を作らないと、次に書く時にあっぷあっぷになってしまうので。無意識が好き勝手に蠢く時間を作っているところです。もちろん、時々は「あ、これはいいんじゃないか」というものがふっと出てきたりしているから、そのメモは取っています。

 で、なんとなくこんなモチーフでいけるかな、というのはあるんですけれど、まあ、まだあまり意識化しないで寝かせています。いま言えることは、次は今までよりももう少し高いハードルを設定して、そこをクリアするような小説にしたいということ。自分でも想像つかないような、未知の領域に目標を設定して、それを書きたいと思っています。