厚生労働省が2017年に発表した統計によると、日本人の平均寿命は男性「81.09歳」、女性「89.26歳」と、過去最高を更新し続けている。「人生100年時代」と言われるなか、「QOL(生活の質)」の向上は、現代人にとってますます重要な課題となっている。中でも性生活は、人間らしい暮らしを送る上で避けて通れないテーマだろう。人は何歳までセックスできるのか――かつて「週刊文春」で話題を呼んだ本企画は、これからを生きる現代人にとっても示唆に富む。あらためてここに公開する。
今回のテーマは精力剤。恥ずかしがり屋の日本人が手に取るまでの「研究の日々」を追った。
※「週刊文春」2012年9月20日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。
サプリで復活 ”歓喜の勃起”を唄に
大阪市に本社がある小林製薬には、全国から川柳が送られてくる。川柳といっても、第一生命が毎年行う「サラリーマン川柳コンクール」に見られるトホホな恐妻家ネタとは異なる。
川柳を寄せるのは、60代から70代の現役を退いた男性が圧倒的で、最高齢は92歳。みな、小林製薬が2007年から販売を始めた通販商品「エディケア」という健康サプリメントの購入者である。彼らはサプリメントで勃起が復活し、歓喜の声を五七五に託して“勃起の唄”を唄っているのだ。例えば──。
〈そそり立つ 富士にも負けず わが息子〉(神奈川県・65)
〈デート日に 今日は2回と せがまれる〉(千葉県・66)
〈今日も元気が いい日 朝立ち〉(北海道・65)
兵庫県の88歳の男性の場合は、〈エディケア 摂って○○ 妻悲鳴〉と、字足らずの破調だが、「謎かけ」として、〈エディケアとかけて 恋女房ととく その心は 死ぬまで一緒〉と記す。謎かけは多く、
〈エディケアとかけて、自衛官の敬礼ととく。その心は、まっすぐ立ちます〉(東京都・79)
〈エディケアとかけて キャンプととく。その心は翌朝テントを畳むのに苦労します〉(愛知県・69)
みな、自らの下半身の変化に心を躍らせている様子が窺える。小林製薬に聞くと、「感想をストレートに言葉にするのは恥ずかしいだろうと思い、日本人なら川柳と謎かけだと思って募集しました」と言う。通販限定の商品だが、発売5年で愛用者が15万人を突破し、累計販売個数は50万個を超えるという。
サントリーの「マカ」をはじめ、男の活力を謳う通販商戦が活況だ。そこからどんな日本人のセックス観が見えてくるのだろうか。勃起をめぐるプロジェクトXを見ていこう。
「恥ずかしい」ED驚異の74%・日本で「精力剤」が売れるには
1998年に発売され、日本で予想外に売れなかったのが、ファイザー製薬のバイアグラである。日本人の性交回数が少ないことが原因と言われているが、小林製薬が調査をすると、50%の人が「病院に行くことに抵抗を感じる」と回答。医師の処方が必要なバイアグラを敬遠する理由が明らかになった。日本でEDの症例者は1000万人以上と推定されているが、EDの人の74%が、「特に対処をしていない」と回答した。
そこで小林製薬が立てた戦略は、日本人の消極性を逆手にとったものだった。薬事法上、配合すると医薬品扱いになる成分を取り除き、薬ではない勃起サプリを開発し、「店頭で恥ずかしくて買えないなら、通販で売ろう」というのである。