「島のみなさんはすごく猫が好き」
どうぶつ基金理事長佐上邦久氏が言う。
佐上氏は現在複雑な思いを抱えている。奄美大島にあまみのさくらねこ病院を設立し、野良猫が1万頭いたとしても、すべての猫に不妊手術を行える体制を整えた。しかし、ボランティアの方々が探しても探しても行政の公表値ほどに猫が見つからない状態で、6月末をもって病院の閉院を決めた。
「環境省や奄美市などの行政のやり方には怒りがわきますが、奄美の島民の方々は私たちを温かく受け入れてくれ、感謝しています。島のみなさんはすごく猫が好き。頻繁に会えなくなるのは寂しいけれど、もうこの病院はこの地域に必要ありません。もともとそんなに猫はいなかった。(行政に)まんまとのせられたと思っています」
同院で獣医師の足立萌美氏が猫に不妊手術する様子を見学した。日本でも有数の手術のスペシャリストと聞いていたが、たしかに早い。1匹あたりおよそ10分強といったところだろうか。足立氏が手術を行えば、たとえ野良猫が1万匹いたとしても1年かからずに不妊手術が終わったに違いない。病院の運営は、どうぶつ基金への寄付金だ。つまり行政の補助金などには頼らずに不妊手術を行ってきたあまみのさくらねこ病院は、本来なら感謝をもって行政から受け入れられたはず。ところが、それらの言葉が最初から最後まで全くないまま、奄美大島での活動を終了となったことに、とても残念な思いである。
「人間と動物が共に生きていける社会」を
獣医師の齊藤朋子氏は、小学4年生の時に獣医師を志した。今からおよそ10年以上前、30歳を超えた頃に、獣医師のみが行える不妊手術によって地域の殺処分ゼロが達成可能であることを知った。だから獣医師は最後の1匹まで救うことを絶対に諦めてはいけない、と自身に言い聞かせている。代表を務めるNPO法人「ゴールゼロ」は、殺処分ゼロへの誓いから生まれた名称だ。
「私がそうだったように、子供たちに夢を与える職業でありたい。犬猫と暮らすことは、こんなに豊かな生活なんだよ、と。『殺処分の計画もしょうがない』ではなく、『殺処分が嫌だから解決方法に向けて活動している』と伝える大人になりたいです」
ノネコ管理計画への反対署名は、6万8000人を超えた。多くの人がノネコの命を大切に思っているのが伝わってくる。
「最初にノネコを引き取る時、すごくドキドキしました。引き取る前に『飼い方が難しい』と何度も奄美ねこ対策協議会から聞いていたので、どれだけ凶暴なんだろうと……ならすのに1年は覚悟していました。でもアマノくんと名付けた1匹目のノネコは、2か月ぐらいでなついてくれて飼い主さんもすぐに見つかりました。やって良かったって。“ノネコ”というハードルを超え、私でも引き取れると思った瞬間です」
奄美大島の自然から、外来種である猫を完全に排除するか否かについては、意見が分かれるところかもしれない。けれども動物愛護管理法の基本原則は「人間と動物が共に生きていける社会を目指す」こと。排除した後にその猫を「殺す」必要性があるのだろうか。また、希少種保全のための税金の使い道としても、クロウサギの死因ナンバーワンである交通事故の対策費とするのではなく、ノネコ対策につぎ込んでいるという費用対効果を考えなければならない。「猫のせいではない」証言や数値は、数多くある。