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なぜ日本の会社では“天才タイプ”が殺されてしまうのか?

『社長の条件』冨山和彦氏×『天才を殺す凡人』北野唯我氏による “天才・秀才・凡人”対談#2

note

組織の調和を乱す者を排除する力が、強烈に働く

北野 大企業を見ていて思うのは、再現性がどんどん強化されていることです。わかりやすくいうと、勉強って基本的には、再現性の世界じゃないですか。その中で勝ってきた人たちが大きな会社に入る。大きな会社の中では再現可能なものが求められるし、それが一番ビジネスにインパクトを与えるので、そこで成功体験を積むと、どんどん再現性が強化されていってしまうという構造がある気がしていて。

 そうすると、創造性みたいなものを持っている人は、そもそも出世しないし、どんどん減っていく。『社長の条件』で経団連の中西会長が言われている、ちょっと異常時じゃないと、そもそも今の社長っぽい人は出てこない、みたいな構造があるんじゃないかと思うんです。

冨山 そういう組織において、お互いの安全保障において大事なことは結局、勝ち負けを組織の中で明確にしない、ということなんです。みんなで再現性の中に閉じこもっていれば、白黒つかない。だって、みんな同じ答えを持っていればいいわけだから。

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 そこで違う答えを言ったときに初めて、白黒ついちゃうわけです。Aという答えと、Bという答え。みんなAって言っていれば、全体で間違ったって、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」になる。「みんな間違っちゃったからしょうがない」で済む。中にいる組織の個人にとっては、実はそんなに危ないことじゃないんです。

 そこで、「そうじゃない、Bなんじゃないか」というヤツが出てくると、こいつが正しかった場合に、残りの人間は全員、敗者になってしまう。Bはひょっとしたら正しいんだけど、こいつを置いておくと後でろくなことにならない、組織の調和を乱すので排除しよう、という力が強烈に働く。

 企業は基本的には自由競争の中で生きないといけないわけです。組織における人事制度は、本来は企業として競争するための手段なんだけど、いつの間にか同質的で連続的な共同体の自己保存の手段になってしまっているんです。

 

北野 新しいチャレンジだ、といって、新規事業の機会もあったりするんですけど、1兆円の会社で300億円くらいの事業を作っても、大した話にはならない。時価総額ベースで3%しか影響ありませんから。一方で、スタートアップ企業なら、300億円って、すごい話なんですけどね。

冨山 本来、企業にとって大事なことは、あえて言えば粗利なり、利益ですよね。見かけの売り上げが1兆円の会社と、売り上げは100億円だけれども50億円が黒字の会社、どっちの事業が価値があるかというと、後者でしょう。

 昔は日本は人口過多で、しかも増え続けていたため、100億円で50億円儲かる会社よりも、1兆円の事業を持ってそこで5万人雇えることのほうが、ある意味では社会的な価値もあった。けれども今は人口減少で人手不足となったため、もはやそこに価値はない。だったら、100億円で50億円儲かるほうが、社会的な価値がある。価値がどこにあるか、というのは、多くの日本企業は見直したほうがいいでしょうね。