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連載この鉄道がすごい

さようなら「京急電鉄800形」 各駅停車なのに最高レベルの加速力だった理由とは

「花道」での爆走に思わず涙した

2019/07/14

genre : ライフ, , 経済

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「快特」「特急」を速く走らせるために

「普通」を速く走らせるためにどうしたら良いか。方法は2つ。1つめは車両の加速性能を上げる。ひと駅ごとにパッと走ってキュッと停まる。2つめは停車時間を短くする。お客さんが乗り降りする時間を短くする。800形には、この2つの条件が求められた。

 加速性能を上げるために、すべての車両を強力なモーター付き車両とした。一般論として、長編成の電車は、すべての車両にモーターが搭載されているとは限らない。コスト削減のためにモーター無しの車両も組み込む方式が多い。さらに、800形の中間車は先頭車よりちょっとだけ車体を長くして重量を増やした。これで車輪とレールの粘着力が上がる。空転しにくくなり、加速もブレーキもしっかり効く。

 

 お客さんの乗降時間を短縮するために、扉の数は片側に4つとした。京急電鉄は車体長が18メートルで、JR在来線や他の大手私鉄の車体長20メートルよりちょっと短い。だから、20メートルの通勤電車は扉が4つ、18メートルの通勤電車は扉が3つ、それがロングシートのバランスも取れた定番仕様だった。それを800形では扉4つに増やした。扉だらけだ。

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 しかも800形の乗降扉は大きな片側開き1枚タイプ。当時、他の鉄道会社は両開きタイプを採用したけれど、当時の京急電鉄は2枚扉も1枚扉も乗降性能に大きな差はないと考えていたそうだ。この考え方は後にあらためられたと見えて、次に作られた2000形以降は両開き扉が採用されている。

 

この4つ扉が800形の引退を早めてしまう

 片側1枚扉はちょっと古くさい印象だけれども、私はこのデザインが好きだった。800形の窓は大きな1枚タイプで、扉が収納される部分も座席部分とほぼ同じ大きさの窓がある。これが両開き扉だと、扉を収納する部分が小さくなり、窓も小さくなって全体的に不揃いだ。最近は扉の収納部分に窓を作らない車両も多い。コスト削減のためだろう。そんな電車に比べると、大きな窓ばかり並ぶ800形は美しく、日中の室内も明るく感じられた。

 

 しかし、皮肉なことに、この4つ扉が800形の引退を早めてしまう。ホームドアが対応できないからだ。京急電鉄は片側2つ扉、片側3つ扉、片側4つ扉が混在する。片側2つ扉は2100形といって、地下鉄に直通しない「快特」や有料座席「京急ウィング号」などに使われる。片側3つ扉は通勤車両の標準で、京急電鉄だけではなく、都営地下鉄、京成電鉄などの直通先と協議して決めた仕様だ。片側2つ扉の位置は、片側3つ扉の両端の扉の位置に合わせている。

 2つ扉、3つ扉、4つ扉のすべてに対応するホームドアは複雑な仕組みになる。しかし、2つ扉、3つ扉だけなら、3つ扉のホームドアを設置して、一部の扉を閉めれば2つ扉に対応できる。ならば4つ扉の800形には早々に引退していただこう、となった。