2019年6月16日、京急電鉄は「ありがとう 800形」特別貸切列車を運行した。
800形は「普通」専用車両として1978年に誕生し、1986年までに132両が製造された。京急電鉄は各駅停車を「普通」と表記する。一時的に快特、特急、エアポート急行も担当したけれど、基本的には本線の「普通」として活躍した。2011年から老朽化による引退が始まり、最後に残された6両1編成が「お別れ列車」となった。
すべての車両にモーターを搭載し、抜群の加速力を誇った
私にとって800形はとても思い入れのある電車だ。私は2003年から2018年まで、京急電鉄本線の大森海岸駅の近くに住んでいた。この駅は「普通」しか停まらない駅だった。だから、品川駅から乗るときは「普通」を選び、たいていはこの800形だった。すべての車両にモーターを搭載し、抜群の加速力を誇った。モーター音も大きく唸り、迫力があった。
とくに立会川駅から大森海岸駅までの加速は印象的で、鈴ヶ森刑場付近の緩やかでちょっとバンクの付いたカーブをギュイーンと駆け抜けるあたりは快感。八百屋お七の霊もビックリな走りっぷり。そこから緩やかに速度を絞って、大森海岸駅にスッと停まる。この一連の動きが気持ちいい。他の区間でもこのような走りだったと思うけれど、私は大森海岸駅で降りてしまうから、この区間しか知らない。
ライバルに勝つためには列車のスピードアップが重要
各駅に停まる800形に、最高レベルの加速力を与える。この性能には理由がある。京急電鉄は最速列車「快特」や「特急」を速く走らせるために、「普通」電車の性能を上げる必要があったからだ。
京急電鉄と言えば、品川~横浜間でJR京浜東北線や東海道本線と競合する。横須賀や久里浜を視野に入れると横須賀線もライバルだ。ライバルに勝つためには列車のスピードアップが重要。そこで京急電鉄は特急電車に力を入れてきた。特急よりも停車駅を少なくした最速の列車種別が「快特」だ。
しかし、地域密着型で営業してきた京急電鉄は駅も多い。すべての駅に停まる「普通」も重要だ。ただし「普通」の後から特急や快特、エアポート急行が追ってくる。後続列車に追いつかれる前に、待避線のある駅で道を譲らなくてはいけない。そのためには「普通」も速く走る必要がある。