「ドラえもん」や「アトム」にはまだ会えない
辻堂 でも私、ロボット事業部で働き出してから一番感じたのは、「人間と区別がつかないロボットに出会えるまでが案外長いんだなあ」ということでした。お客さんは、人型ロボットといえば「ドラえもん」や「アトム」をイメージしているわけです。あそこまでいかなくても、こちらが言ったことをある程度理解して、とんちんかんでもいいから何か返してくる、人間の3歳児くらいのロボットならすぐにできるんじゃないかと思っているんですよね。「ひと月に1回、保険証チェックできる?」と商談で病院関係者に言われたことも(笑)。実際は人間が全部プログラミングしないと何も言えないし、コミュニケーションも出来て、さらに他のことも出来るロボットはまだいないと思います。
太田 『お騒がせロボット営業部!』には、実際に大手通信会社のロボット部門で働かれていた辻堂さんだからこその、あるあるネタが凄くて(笑)。一時期ロボット業界でバズッてた「期待値コントロール」というワードも出てきました。
辻堂 銀行やレストラン、車のディーラーなど店舗の店頭に置いてもらった時に、出来ることはどこまでか、この先どんなことが出来るのか。「ロボットがお客の目的を聞いて、廊下を歩いて案内するようにしたい」とか期待されても無理ですから(笑)。とにかく全てはギャップを埋めるところからでした。
太田 これまでたくさんのSFで描かれたような「擬人化された存在」ではなく、ロボットとしてリアルに描かれているので、ロボットに詳しい人ほど楽しめるミステリだと思います! 中でも、ロボットが詐欺を働いた事件が私はとても好き。今すぐに現実で起きてもおかしくないですよね。
辻堂 ありがとうございます。さすがにそこまでの事件はないんですが(笑)、研修施設の受付に置いてもらってたロボットが、外から入ってきた人に「電波を発している」って引き倒された、という事は実際にありました。最初電話でそれを聞いた時、先入観で「新しいもの嫌いのおじいちゃんかしら」なんて思いましたけど、中年の女性だったらしくて。あれはちょっとびっくりしました。