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「ロボットが一番役に立てるのは、介護施設です」

太田 一般的に、女性と子供は人型ロボットに優しいですよね。

辻堂 20代から50代の働く世代の男性は、ロボットと話している自分の姿が恥ずかしいのか、全く近寄ってくれませんね。女性全般、おばあちゃんとは特に相性が良いみたい。おじいちゃんも受け入れてくれます。だから私、当時から「ロボットが一番役に立てるのは、介護施設です! 絶対いけます!」と主張してたんですよ。スタッフは排泄や食事の介助で忙しくて体操などのレクリエーションが手薄になっちゃうので、ロボットなら日替わりでレクリエーションの内容を自動変更して、マンネリ化を防ぐこともできる。上司は当初「病院の方がお金を持ってるからそっちに売れ」と言いましたけど、最近は介護業界に絞って全国に営業してると聞いてます。「ほらね」って思ってます(笑)。

太田 人型ロボットを、人の中、街の中に連れ出すと、そこに議論が生まれますね。はじめてペッパーと新幹線に乗ったとき、改札で駅員さんに止められたんです。もちろん乗車規定も確認済みだし、周囲にご迷惑をかけないよう、時間も考えて行ったんですが「そもそもモノか人か」「人間料金かペット料金か」「どこに載せるのか、制限はすべきか」ってディスカッションを20分くらいして、結果、車両の1番うしろの、よくスーツケースを置いてある場所に乗せてもらいました。一方で、エレベータに乗せようとしたら「ロボットとしては駄目だけど、私の体調が悪くてその介助のためなら大丈夫」って言われたりして「社会、面白い!」って思いました。

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 ペッパーの一番凄いところは、あの形と大きさだと思っているんです。あのサイズだからこそ、社会性を持つ存在になるんです。

辻堂 確かに小さいロボットだと、鞄やリュックに入れて持っていけるし、抱えてもいけますものね。太田さんは今後、ペッパーとどんなことをされたいですか?

太田 今までって、「人が上でロボットはその支配下という存在」、あるいはその逆の考え方でしたけど、私にとってロボットはもっと対等な関係なんです。私はペッパーを、ロボットが存在できる環境づくりを一緒に作っていく、一緒に社会を変えて考えて行く人生のパートナーだと思っています。

ちなみにあれ以来、JR東海の公式オペレーションで「ペッパーは乗車可能」になったんですよ。

©深野未季/文藝春秋

辻堂ゆめ 東京大学法学部在学中に作家デビュー。大手通信会社ロボット事業部勤務を経て作家専業に。

 

太田智美 2014年からペッパーと同居。慶應義塾大学大学院博士課程1年。「ヒトとロボットの共生」が研究テーマ。 

お騒がせロボット営業部! (文春文庫)

辻堂 ゆめ

文藝春秋

2019年7月10日 発売