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国民の無知をネタにするパフォーマンス

 小泉は中盤戦に入った7月9日あたりから大聴衆に語りかける内容を大きく変えてきた。一言で言えば、他人様の生き方に上からモノを言う昭和おじさん的論法を修正したのである。

 選挙戦序盤、小泉は「麻生(太郎)さんのことを話す前に、みなさんは、今の年金制度をちゃんと知っていますか」というフレーズで切り出していた。その上で、公的年金の受給開始年齢など制度の中身を説き、高い壇上から聴衆に「コレ、知っていた人?」と呼びかけながら、「半分しかいない!」と言って笑い出す。

 

 私はそんなパフォーマンスを見ていて驚いた。

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「老後破産」「下流老人」という言葉が頻繁に使われる今日、本当に困っている高齢者にとって年金とはすなわち「ご飯」だ。見るに堪えない失態を演じた身内への批判を棚に上げ、「政治家の反省」もろくに口にせず、自ら掲げた改革案を持ち出すために、国民の無知をネタにする。そんな態度は、これまでの小泉進次郎らしくない――。9日午前に「文春オンライン」から配信した本連載「小泉進次郎の『年金2000万円』演説にロスジェネが感じたすきま風」で、私は指摘した。

 それが理由か否かわからないが、小泉は9日の演説からスタイルを改めた。聴衆に挙手をさせて無知を嗤う「昭和おじさん」のようなパフォーマンスを取り止めたのである(14日の山形県内の個人演説会場では久々に披露していた)。

 

財源を語らず「痛み」には触れない

 全国各地を移動しながら1日4、5回の応援演説をこなす小泉は、集まった聴衆の顔ぶれや受け具合、あるいは選挙情勢を見て、演説内容のチューニングを微調整する。ネタの種類は以前よりも少ないが、状況に応じた判断力は相変わらず高い。

 序盤戦の演説では、党の厚労部会長として手掛けた年金改革の三本柱を「受給時期繰り下げの選択肢拡大」、「在職老齢年金の段階的廃止」、「厚生年金の適用拡大」の順に取り上げていた。それを、2番目を一番前に持ってくるように言い方を変えてきた。聴衆の反応が一番良いからだろう。もらえなかったお金がもらえるようになるという単純明快で「現世利益」に適った話だから当然だ。

 一方で、残念なのは、演説の中で改革にともなう「痛み」に触れないことだ。在職老齢年金制度の廃止には1兆円の支出増が見込まれるが、その財源を語ろうともしない。小泉は明るい顔で「私が3年前から議論してきたことが、今回、政府の方針に入りました!」と訴えるが、自民党の演説会に顔を出すような高齢者にとっては受け取る年金が増えても、次世代にはツケを残すことになりかねない。

 

 近い将来の負担増を覚悟している就職氷河期世代の私には、3番目の改革「厚生年金の適用拡大」について語る小泉のこんな物言いがずっと気になっている。