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「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」藤井聡太17歳の豊富すぎるボキャブラリー

「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」藤井聡太17歳の豊富すぎるボキャブラリー

語録から垣間見える「記録よりも棋力」のスタンス

2019/07/19
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 また、将棋界で知られているのは、1936年の木村義雄八段と萩原淳八段による対局(肩書はいずれも当時のもの)。第1期名人を争うリーグの大きな対局だった。

 必勝だった木村が、萩原のかけた王手の受け方を誤り、詰まないはずの玉を詰まされてしまった。それに気づいた木村は血相を変えて「君は詰まぬと知っていながら僥倖を頼んで指したんだな」と声を上げたといわれている。

 藤井の系譜をたどっていくと、藤井→杉本昌隆八段→板谷進九段→板谷四郎九段→木村義雄十四世名人となる。藤井は木村十四世名人の玄孫弟子というわけだ。将棋界での由緒ある言葉を、大きな一番のインタビューで使ったのも何かの縁かもしれない。

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「来年は先手がほしい」とジョークも

 藤井は毎局、対局が終わったあとにインタビューを受けているためか、受け答えにユーモアを交えることも増えてきた。

 一般的に将棋は、先に指す先手番がやや有利といわれている。実際、公式戦の成績を見ても、先手勝率のほうが少し高い。今年の1月から2月に行われた第12回朝日杯将棋オープン戦の本戦トーナメントで藤井は、4局とも後手番になってしまった。それにもかかわらず、強敵をなぎ倒して昨年に続いて優勝。棋戦最年少連覇記録を更新した。

連続で後手番を引いた今年の朝日杯将棋オープンでは、次々とトップ棋士を撃破。決勝戦でも、渡辺明三冠に勝って2連覇を果たした ©文藝春秋

 そのときのインタビューで「今年は本戦ですべて後手番だったので、来年は少しは先手番が欲しい」と述べて、会場が爆笑の渦に包まれた。

統計学の言葉をスッと出す語彙の豊富さ

 公式戦29連勝を果たす直前に行われたインタビューで藤井は「連勝には特にこだわりはありません。今は勝敗が偏っている時期で、いずれ『平均への回帰』が起こるのではないかと思っています」と述べた。

「平均への回帰」とは、1回目の結果で偏った値が出た事象において、同じ内容での2回目の結果は、1回目全体の平均値に近くなるという現象のことだ。統計学の言葉をスッと出す語彙の豊富さに驚かされる。

デビュー直後に行われた非公式戦「炎の七番勝負」では、羽生善治九段にも勝利した ©君島俊介

 29連勝をもう1回するのは至難の業だが、それでも通算で150局以上指して、勝率は8割5分を超える非常に高い成績を残している。上位陣との対戦が中心になったときが勝負どころだろう。