将棋は男性が指すもの。女が将棋をやっても絶対に強くはなれない。そんな意見がまかり通っていた時代、少年たちに混ざり、将棋盤に向かい続けた少女がいた。
女流棋士の第一人者であり、昨年、最年長勝利などの記録を残して、惜しまれつつ現役を引退した蛸島彰子女流六段である。
道なき道を歩き続け、女流棋士として研鑽を積みつつ、将棋の普及活動にも力を尽くしてきた。将棋界という完全な男性社会の中で、何を思い、何を目指したのか。「女性初」の道のりを尋ねた。(全2回の1回目/#2へ続く)
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「女はバカだから将棋をやっても強くなれない」
私が子どもだった頃は、将棋を指す女の子なんて、まずいなくて、何々県にひとりいるらしい、と噂になるような、そんな時代でした(笑)。
私が将棋道場で指していますと、偉い先生がやってきて「女はバカだから将棋をやっても強くなれない。だから、早く違うところに行きなさい」って真剣に言われたり。そんな感じでした(笑)。将棋は男がやるもの、将棋界は男の世界という感覚が徹底していたんです。
父が将棋ファンで、父から教えてもらったのですが、最初は山崩し、回り将棋といった遊びから入って、本将棋へ。私は小学5年生でした。
父の機嫌がいいと外食に連れていってくれるのですが、ある日、お店に入る前に将棋道場に立ち寄り、父が一局指し終わるのを待っていたら、道場に来ていた金易二郎先生(名誉九段)が「動かし方を知っているの?」と優しく声をかけて下さり、一局、指して下さったんです。六枚落ちでした。お相撲で言えば、手も足も使わないからかかってきなさい、というぐらいのハンディを頂いたわけです。
勝敗は忘れてしまいましたが、金先生が「とても筋がいいから、将棋連盟の(奨励会)初等科に入ってみてはどうか」と褒めて下さった。父は舞い上がるし、私もとても嬉しかった。それで初等科に入りました。