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高野 藤井さんと対戦する人は、みんな藤井システムを研究してきます。そしてその多くの人が藤井システムと対戦することで、その攻略についてはどんどん進化する。しかし、藤井システム自体を進化させることは、藤井猛という人が、一人でするしかないわけです。

岡部 なるほど。

高野 ですから「藤井システム崩壊の日」が来るのは避けられない運命でもありました。ただ、藤井システムで勝てなくなってくると、次に矢倉をやるんですよ。「藤井矢倉」という独特なもので、これもまた素晴らしいものでした。

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奨励会に入るまで実戦を200局くらいしか指さなかった

岡部 「藤井システム」がすごいというより、藤井猛という人がすごいということに尽きるんですね。

高野 そう。序盤の研究量とアイデアが、ずば抜けているんですね。藤井さんがここまで序盤を研究しているんだからと、多くの棋士がそれに倣って、研究を始めていきます。今の将棋の進化は、確実に藤井猛という人が作った一面があるんです。

「藤井システム」はプロでも真似できないんですよ

岡部 なぜ、藤井猛さんは、そういうことができたんでしょうか。

高野 藤井猛さんは、奨励会に入るまで実戦を200局くらいしか指さなかったという有名な話があります。地方で対局場所も少なく必然的に自分で考えるしかなかった。だから序盤を研究したのかもしれませんね。ただ、序盤はずば抜けた発想がないとできないので、これは天から与えられた才能としかいえない部分もあります。

岡部 逆に藤井猛九段の弱点は?

高野 決して弱いというわけではないですが、トップ中のトップにくらべれば終盤力でしょうね。ただ、藤井システムなどを見てもわかるように、藤井猛さんは序盤の一手、一手からものすごく神経を使って指しているので、終盤、それは疲れていますよね。「新手一生」の升田幸三先生も終盤のポカがありました。同じ香りを感じるんです、藤井猛さんには。

 

岡部 もし「藤井猛の序盤力」と「藤井聡太の終盤力」がミックスされたらどうなりますか?

高野 それはものすごい怪物でしょう(笑)。いつか「猛」VS「聡太」の一戦を見たいですね。ものすごく盛り上がるだろうなぁ。考えるだけで、ワクワクします(笑)。

「システム登場!」「きたー!」と喜びの声が

 今でも藤井猛九段によって「藤井システム」が指されると「システム登場!」「きたー!」と喜びの声がツイッターに溢れかえる。おそらく誰も指しこなせない「藤井システム」の登場にこれだけ喜ぶ人がいるという現象は、「自ら指さずとも観ているだけで楽しめる」という「観る将」の世界観の一端を表しているかのようだ。

 なお藤井猛九段は、3年前の2016年には全棋士参加の「銀河戦」において「藤井システム」を駆使して優勝を果たしており、まだまだ健在を示している。藤井猛九段による「藤井システム」、そして藤井猛九段だからこその将棋を見るのが、また一段と楽しみになった。

「会議」は居酒屋で行われることが多いとか。高野六段と筆者(右)

 写真=石川啓次/文藝春秋

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