「蘭州ラーメン」が人気だ。「麺の国」中国でも屈指の人気を誇るが、日本では知る人ぞ知る存在だった。それが2年前の日本初上陸で一気に話題となり、今や日本各地に専門店ができている。今年4月には即席めん大手の日清食品が「カップヌードル 蘭州牛肉麺」を発売するなど、ブームは加速する気配を見せている。
蘭州牛肉麺専門店「ザムザムの泉」とは
この人気を牽引する店がある。ニュー・チャイナタウンとして注目を集める西川口に店を構える蘭州牛肉麺専門店の「ザムザムの泉」だ。カウンター7席だけの小さなお店だが、TRYラーメン大賞2018-2019で新人賞を獲得した実力は折り紙付き。食事時はいつも満席で、行列ができることもしばしばだ。6月、同店を尋ねて、店主で妻の鄧斌(ダン・ビン)さん、麺職人を担当する馬(マー)さんの話を聞いた。
「蘭州牛肉麺のスープはいわゆる薬膳。いろんなスパイスを調合して複雑な味を作るんです。蘭州の回族(中国の少数民族、イスラム教徒)が数百年も守ってきた味で、レシピは門外不出ですよ。スープ作りの時は職人が一人で作り、他人を厨房に入れないぐらい徹底しています。まあ、今は中国でもインスタントスープを使う店が増えてはいますが。私は蘭州でも長い歴史を持つ名店の親戚なんです。中国じゃなくて日本で店を開くから競合しないと口説き落として、ようやくレシピを教えてもらえたんですよ」と馬さん。
日本のラーメンのように濃厚なスープではないが……
勧められてスープをすすると、牛骨だしが口の中に広がる。日本のラーメンのような濃厚なスープではないが、さっぱりとしつつも複雑な味わいに唸らされる。おいしさの秘密はスープだけではない。麺もこだわりの一品だ。注文が入ってから麺を伸ばすのが馬さんのこだわりだ。こねた小麦を、体重をかけて伸ばしたかと思うと、引っ張っては折りたたみを繰り返して麺の形へと変えていく。まさに重労働、馬さんの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
スープにも麺にもこだわる。その職人魂が人気の秘密だ。大ファンだという釘野さん夫妻(40代)はわざわざ渋谷から1杯の麺を食べにやってきた。「休日になにかおいしいものを食べたいねという話になって、じゃあザムザムの泉だということになりました。他では食べられない味ですから」。初訪問だという20代男性は一口麺をすすると「うまい。スープだけじゃなくて、麺も日本のラーメンとは別物ですね」とうなっていた。