それでも本格店が増えない理由とは?
蘭州牛肉麺の注目度は高まる一方だが、「ちゃんとしたお店は増えないでしょうね」と、ザムザムの泉の馬さんは話す。蘭州牛肉麺は秘伝のスープレシピと麺をこねる熟達の技、そして良質な材料がそろわなければ作れない。なによりボトルネックは職人だ。
「日本の材料は最高です。だから、うちの麺は蘭州よりもおいしいかもしれない。ただ職人がいないんです。店を始めるまでは東京五輪までに4店舗ぐらい開業するつもりでいたんですが、結局私しか麺が打てないので、お店を増やせないんです」と馬さん。
中国住みさんも「周記(大阪)など他の蘭州牛肉麺のお店でも悩みは一緒で、職人不足で困っていると聞いています」と話す。
技能実習生など外国人労働力の受け入れに動き始めた日本だが、職人を呼ぶための特定技能ビザのハードルは変わっていない。日本全国に急増したネパール・インド料理店では調理人名目で人を呼び寄せ、実際には店ではなく建設現場などで働かせる詐欺行為が横行。タンドール(窯)一つで調理人4人までビザが取れるなどの噂が横行しているようだ。
25席以上の中華料理店でないとビザが取れない?
中国人のビザ申請に詳しい吉岡俊二行政書士に話を聞いた。
「インド人やネパール人の条件はわからないですが、出入国在留管理局(入管)には非公開の内規があるとは言われています。中華料理店ですと、25席以上の店でないと厳しいと言われています」と吉岡さん。カウンターのみ7席の、ザムザムの泉ではまず広さが足りないわけだ。
「経験則から内規を把握する努力も必要です。ただ、巷に流れている噂にはデマも多いので、注意が必要でしょう。加えて、ちゃんとした事業計画を作れるかを気にすべきでしょう。調理人を雇うにしても、日本人と同等の給与をきちんと支払い、社会保険もかけて、それでも経営できるという事業計画をきちんと示せば、ビザは発給されるはずです」
きっちりした事業計画が必要。経営が立ちゆかなくなるような店では違法労働につながりかねない。なるほどと思う一方で、このやり方では高い利益を上げられる高級レストランか、見栄えだけがいい事業計画書で人を呼ぶ店ばかりにビザが発給されて、事情に詳しくない中小事業者が不利になってしまう。
おいしい蘭州牛肉麺を日本でより身近に食べられる日は来るだろうか。