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小説を書くことって、不安で、孤独なんです。それを引き受けるのが作家の義務だと思います――吉田修一(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/05/01

genre : エンタメ, 読書

不安や孤独を引き受けるのが、小説を書く時の義務だと思う

――以前別の媒体で取材したときに、「自分が正しいと思う自信はない。揺らいでいるから書いている」とおっしゃったのは憶えていますか。「だけど、揺らげるということは自信があるからだと思う。自信がなかったら拠り所を探してしまうから」って。

吉田 そうですね。人に何かを伝える時に、「これが正しいと思う」と言った時点で、やっぱりちょっと違うような気がするんですよね。『怒り』では、自分に自信があれば、相手を信じられるという結論なんですよ。自分に自信がないと人のことも信じられないんですね。結局、自分を信じられるかどうかということですよね。

 

――どうしたら揺らいでいるままでいられるんでしょう。

吉田 難しいですよね。自分は正しいと思いたいですもんね。少し話は逸れますけど、例えば、子どもの頃の喧嘩なんかでも、全然負けていいと思っていたんですよ。兄弟げんかでも。

 僕は弟が一人ですが、近くに従兄もたくさんいて、喧嘩になるようなこともあったんです。そういうとき、勝たなきゃと思うと怖いんですけれど、負けてもいいんだと思うとそんなに怖くないんですよ。人間って、やっぱり負けるのが嫌。そこだと思うんですよね。揺らぎを残せるかどうかって。

――ああ、吉田さんは基本的に怒らなそう。争い事を全力で避けようとするタイプのように感じていました。そういえば、そもそも人との接触も避けがちというか、他の作家の方々とあまり交流しませんよね。対談の依頼なども基本断ることが多い。どうしてでしょうか。

吉田 そうですね。でも、慕っている先輩もいますし、慕ってくれている後輩も、たぶんどこかに一人くらいはいると思ってますよ(笑)。ただ、会わないだけで。

 でも、偉そうなことを言ってしまうと……、カッコよく言わせてもらうとね(笑)、小説を書くということはね、そのための孤独といいますか、不安といいますか、を引き受けるのが義務だと思うんですよ。だって怖いじゃないですか、一人っきりで小説を書くのって。不安だし、孤独だし。でもそれは小説家として絶対に引き受けなきゃいけない義務であって、だからこそ読者は一人になって小説に向き合ってくれるんだと思うんですよ。

 それは、僕自身がそうだったから。自分が本を読んでいる時に、この作家は絶対に苦しい時間、寂しい時間、一人っきりの時間を過ごしたはずだという前提で読むんですよ。そこで対等になれると僕は思っていて。とすると、作家の義務としては小説を書いているときぐらい、その孤独や不安は引き受けなきゃいけないと思うんですよ。誰かと話したくなるけど、それはしない。相談できないから作家なわけじゃないですか、小説なわけじゃないですか。それは昔からです。さっきも言いましたけど、最初に小説を書き始めた時に、「あ、一人になれるんだ」と思ったことが、ここにつながっているんだと思うんです。

――本当に、書き手と読み手が一対一で向き合う状態なわけですね。ああ、確かに個人的作業でできたものを個人に届けるというメディアではありますね、小説は。

吉田 だから僕は、ひとつの小説を複数の作家で書く、というような企画がちょっと苦手なのかもしれないですね。