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母の死、ホテル倒産、20億円の借金……再起を誓う加山雄三に作詞家・岩谷時子が贈った言葉

『ラストダンスは私に 岩谷時子物語』(光文社)

2019/08/06

 9月の半ば、約束通り帰国した加山は、傍らに新妻を伴っていた。

 若大将シリーズで共演した女優の松本めぐみと現地で落ち合い、再起を誓って、ロスでささやかな挙式を挙げたのだった。

 空港には100人近い報道陣が詰めかけていた。赤坂プリンスホテルで、初めて記者会見が開かれ、加山には厳しい詰問が浴びせられた。騒ぎの最中の渡航に、無責任だというヤジは飛んでも、誰ひとりとして、結婚を祝福する言葉をかける者はいなかった。

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 1週間後、加山本人から連絡があり、時子は帝国ホテルの17階のレインボーラウンジで待ち合せ、新婦を紹介された。

「ご心配をおかけしました。これから何年かかるかわからないけど、ふたりで頑張って行きます」

「おめでとう。大変だったと思うけど、ふたりとも元気そうでよかったわ」

「あの『追いつめられて』という歌の、岩谷さんの歌詞の、全くその通りになったんですよ」

 時子はそう言われて自分が書いた詞を思い起こした。

 追いつめられて お前とふたり  
 知らない街を 歩いている
 (略)
 追いつめられて お前とふたり
 風に向かい歩いてゆく

「アメリカのローンバインっていう街をふたりで歩きながら、やっぱり岩谷さんには予知能力がある。天才だと思いました」

 新婦から時子は記念に美しい真珠のブローチを受け取り、時子はふたりに、気持ちばかりの結婚祝いと、色紙に認めた祝福の言葉を贈った。

「嵐が去った朝
どんな風にも負けなかった
小鳥の巣が
光の枝に
残されていた

   昭和四十五年
       九月 
    愛をこめて
       時子」

写真提供=岩谷時子音楽文化振興財団

ラストダンスは私に 岩谷時子物語

村岡 恵理

光文社

2019年7月17日 発売

母の死、ホテル倒産、20億円の借金……再起を誓う加山雄三に作詞家・岩谷時子が贈った言葉

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