9月の半ば、約束通り帰国した加山は、傍らに新妻を伴っていた。
若大将シリーズで共演した女優の松本めぐみと現地で落ち合い、再起を誓って、ロスでささやかな挙式を挙げたのだった。
空港には100人近い報道陣が詰めかけていた。赤坂プリンスホテルで、初めて記者会見が開かれ、加山には厳しい詰問が浴びせられた。騒ぎの最中の渡航に、無責任だというヤジは飛んでも、誰ひとりとして、結婚を祝福する言葉をかける者はいなかった。
1週間後、加山本人から連絡があり、時子は帝国ホテルの17階のレインボーラウンジで待ち合せ、新婦を紹介された。
「ご心配をおかけしました。これから何年かかるかわからないけど、ふたりで頑張って行きます」
「おめでとう。大変だったと思うけど、ふたりとも元気そうでよかったわ」
「あの『追いつめられて』という歌の、岩谷さんの歌詞の、全くその通りになったんですよ」
時子はそう言われて自分が書いた詞を思い起こした。
追いつめられて お前とふたり
知らない街を 歩いている
(略)
追いつめられて お前とふたり
風に向かい歩いてゆく
「アメリカのローンバインっていう街をふたりで歩きながら、やっぱり岩谷さんには予知能力がある。天才だと思いました」
新婦から時子は記念に美しい真珠のブローチを受け取り、時子はふたりに、気持ちばかりの結婚祝いと、色紙に認めた祝福の言葉を贈った。
「嵐が去った朝
どんな風にも負けなかった
小鳥の巣が
光の枝に
残されていた
昭和四十五年
九月
愛をこめて
時子」
写真提供=岩谷時子音楽文化振興財団