イチローが米国で得たもの
こうした記者との問答は1時間25分に及んだ。その内容はすぐに記事として配信され、とりわけ記者会見での最後のやり取りがSNSなどで話題となる。それは孤独についてのものだ。
米国にわたり「外国人になったことで人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることができたとしても、体験しないと自分の中からは生まれないので」と述べる。留学先でよそ者扱いされたことで愛国心に目覚めるのはよくある話だが、イチローの場合は円熟に作用する。そしてこう続ける。
「孤独を感じて苦しんだことは多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと、今は思います」。
先に紹介した「Number」のインタビューのなかで、米国にいってから自分の言葉を大切にしなくてはと思うようになったと述べている。それをおもうとMLB通算3089安打とともに、この引退会見のやり取り、とりわけ生活体験が凝縮した孤独についての言葉は、19年に及ぶ米国での生活の、もうひとつの到達点のように思えるのであった。「世間に出たら赤ん坊」なんてことは、きっとない。
(注1)「PRESIDENT」1999年12月号
(注2)「Number」2019年4月25日号
(注3)井田真木子『井田真木子と女子プロレスの時代』イースト・プレス
(注4)清原和博『告白』文藝春秋
なお、3月21日の引退記者会見については「AERA dot.」の下記を参照した。
https://dot.asahi.com/dot/2019032200005.html
https://dot.asahi.com/dot/2019032200008.html