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特集2019年上半期の「忘れられない言葉」

2019/08/11

「女のくせに」と東大の祝辞

上野千鶴子東大名誉教授 ©文藝春秋

 ドラマでは、結局このあと金栗が、ストックホルム行きを断った最大の理由だった旅費をどうにか工面して、無事にオリンピックに出場する。だが、肝心のレースは途中で棄権してしまう。4月14日放送の第14回では、帰国した金栗が東京高師で報告会を行なっていたところ、東京女子高等師範学校の助教授だった二階堂トクヨ(演:寺島しのぶ)から「敗因は何だと思いますか」と厳しく問い詰められる場面があった。二階堂の批判は、オリンピック代表の選考方法にまでおよぶのだが、そこへ誰が言ったのか「つまみ出せ。女のくせに生意気だぞ!」との罵声があがる。これに怒った彼女は、発言主を金栗の後輩・野口源三郎(演:永山絢斗)と勘違いして、「この棚から落ちたぼたもちめ!」と言い放つ。その言葉は、男がたまたま男に生まれたというだけで社会で優遇される状況に異議を唱えたものだった。

 ちょうどこの放送の直前の4月12日には、東京大学の上野千鶴子名誉教授が入学式の祝辞のなかで、「これまであなたたちが過ごしてきた学校は、タテマエ平等の社会でした。偏差値競争に男女別はありません。ですが、大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています」と、日本社会における性差別の根深さを指摘し(※2)、議論を呼んでいた。それだけに、ドラマのなかでの二階堂の発言はタイムリーだった。

「化け物」と中傷された人見絹枝

『いだてん』ではこのあと、二階堂や金栗が女子体育・スポーツの普及に尽力するさまが描かれた。7月7日放送の第26回では、二階堂の開いた二階堂体操塾の卒業生である人見絹枝(演:菅原小春)が、初めて女子の陸上競技が採用された1928年のアムステルダムオリンピックに出場し、800メートル走で死闘の末に銀メダルを獲得する。

二階堂トクヨを演じる、寺島しのぶ ©文藝春秋

 この回では、アムステルダムオリンピックの2年前、女子の国際大会への出場権を獲得した人見が二階堂を訪ねた際、「結婚して子を産むこと、それを幸福と言うならば、私は幸福になどなれないし、ならなくて結構です」と口にする場面があった。人見は長身のため目立つ存在であり、走るたびに観衆から「化け物」「六尺」などと中傷を受けていた。そのために国際大会への出場を辞退しようとまで思い詰めるのだが、これに対し、二階堂が「それは違うわよ、絹枝さん。あなたはメダルも取るし、結婚もする」「どちらも手に入れて初めて女子スポーツ界に革命が起きるんです」と諭す。