昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集2019年上半期の「忘れられない言葉」

2019/08/11

「ストレートの女の子、ゲイの女の子も。ねえ!」

 この放送直後の7月11日には、女子サッカーW杯フランス大会で優勝したアメリカチームの凱旋パレードと表彰セレモニーがニューヨークで行なわれた。表彰セレモニーではキャプテンのミーガン・ラピノー選手が壇上に立ち、「私たちのチームにはピンクの髪や紫の髪、タトゥーしてる子、ドレッドヘアの子、白人、黒人、そのほかの人種の人たち、いろんな人がいる。ストレートの女の子、ゲイの女の子も。ねえ!」と呼びかけたあと、「私たちはもっと良くできる。もっと愛し合い、憎しみ合うのを止めましょう。喋ってばかりいるのを止めて、もっと人に耳を傾けましょう。これはみんなの責任だと認識しなければなりません」と訴えた(※3)。

ラピノー(中央)と米国女子サッカー代表選手。今年のW杯で優勝 ©AFLO

 ラピノーはこれ以前より、トランプ大統領の政治姿勢に反対する立場から、W杯で勝ってもホワイトハウスには表敬訪問はしないと宣言するなど、政治や社会に対する発言でグラウンド外でも注目されていた。誹謗中傷により競技から退こうとまで考えた人見と、批判に対しても果敢に反論するラピノーはいかにも対照的だが、人見たちが切り拓いた女子スポーツの世界から、約1世紀をかけてラピノーのような選手が輩出されたのだと思うと、感慨深い。

川栄&シャーロットの妊娠、ビートたけしの離婚

金栗の妻・スヤを演じる、綾瀬はるか ©文藝春秋

『いだてん』と現実のシンクロではこのほかにも、金栗の妻・スヤ(演:綾瀬はるか)が第一子を出産した第18回(5月12日放送)の直後には、奇しくもドラマに出演する川栄李奈とシャーロット・ケイト・フォックスの第一子懐妊があいついで発表された。ついでにいえば、『いだてん』の語り手である落語家の古今亭志ん生とおりん夫人の馴れ初めを描いた22回(6月9日放送)から、新婚早々離婚の危機を迎えるも何とか乗り切った23回(6月16日放送)までのあいだには、志ん生を演じるビートたけしと夫人の離婚が報じられたが、これに関しては何とも間が悪かった。

古今亭志ん生を演じる、ビートたけし ©文藝春秋

『いだてん』は6月30日放送の第25回より第2部に入り、主人公も金栗四三から田畑政治(演:阿部サダヲ)へとバトンタッチした。舞台も昭和に入り、アムステルダムオリンピックでは田畑の指導する水泳陣がメダルをもたらすなど、日本のスポーツは一つの頂点を迎えようとしている。だが、一方で、田畑が本業の新聞記者として会ったこともある首相の犬養毅(演:塩見三省)が暗殺される(1932年の5・15事件)など、時代はしだいにきな臭い方向へと進みつつある。犬養は、首相官邸を襲撃した青年将校たちと対話を望みながら、結局聞き入れられないまま狙撃されてしまった。満州事変に続き、5・15事件を機に台頭した軍部に対し、新聞も圧力を恐れ、批判的な言説をトーンダウンさせていく。社会に不寛容な空気が広がり、言論の自由が失われていくさまは、残念ながら現在の日本の状況とどうしても重ね合わせてしまう。

 全体的に喜劇色の濃い『いだてん』だけに、こうしたシリアスな展開はかえって印象に残るし、つくり手の思いも伝わってくる。今後、ドラマのなかでは田畑たちスポーツ関係者も否応なしに戦争に巻き込まれていくはずだが、果たしてその姿はどのように描かれるのだろうか。

※1 「産経ニュース」2019年2月14日
※2 「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」(東京大学ホームページ)
※3 「ハフポスト」2019年7月11日

この記事の写真(7枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー