NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』は、日本が初参加した1912年のストックホルムオリンピックから、1964年に東京オリンピックを開催するまでの半世紀を描こうとしている。だが、多くのすぐれたドラマがそうであるように、そこには過去を通して現在を浮き彫りにするような描写も目につく。私も毎回見ているうちに気づいたのだが、ドラマのなかのできごとが現実とシンクロするようなこともたびたび生じている。

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「がっかり発言」でシンクロ

嘉納治五郎を演じる、役所広司 ©文藝春秋

 私が最初にそれに気づいたのは、2月10日放送の第6回だった。『いだてん』の第1部の主人公である金栗四三(演:中村勘九郎)が1911年、ストックホルムオリンピックの予選会のマラソンで優勝する。これを受けて、金栗が当時通っていた東京高等師範学校の校長で、大日本体育協会の会長も務める嘉納治五郎(演:役所広司)は、金栗を日本代表としてストックホルムへ派遣すると決める。

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 だが、当の金栗は、嘉納から直々に出場を要請されるや、「行きとうなかです!」と辞退する。じつは、金栗は先のレースがオリンピック予選とは知らずに参加していたらしい。それどころか、そもそもオリンピックとは何なのかさえも知らなかった。これを聞いた嘉納は、日本のオリンピック参加のため情熱を注いできただけに落胆する。そのうえ金栗が、もし国の威信をかけた大舞台で負けたら国民に顔向けができないと言い出したため、嘉納はとうとう「がっかりだ!」と口走ってしまう。いや、しかし勝手に期待しておきながら、相手が従わないとなると「がっかりだ」と言うのは、ちょっとフェアじゃないのでは……?

 そう思っていたところへ、現実の世界では、競泳の池江璃花子選手が白血病を公表したのを受け、桜田義孝オリンピック担当大臣(当時)が「日本が本当に期待している選手ですからねえ。本当にがっかりしております」と発言する(2月12日。※1)。桜田大臣は続けて「とにかく治療を最優先にして、元気な姿を見たい」と池江選手にエールを送ったものの、「がっかり」という発言は不適当だとして批判を浴びた。

池江璃花子 ©文藝春秋