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「相撲は上手(うわて)が有利ですが、闘牛は下手(したて)です。首を相手の下に入れた方が押せるからです。チョッパーはこれがまったくできないのです。うまい牛は上手になっても首を使って下手を取り直しますが、それもできない。前足を伸ばして、押されないようにする体勢も取れない」

「思わず息を飲む取り組みでした」

 だが、闘牛は大好きで、一度も逃げたことがない。

「いつも圧倒的に不利な状態で引き分けにしてもらうのですが、根性があって、やられても嫌にならないようなのです」と柿木さんは話す。

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「よく頑張ったな」。柿木敏由貴さんの手綱で闘い終えた柿木チョッパー

 6月場所も開始早々、いきなりやられた。半ばのけぞりながら闘牛場の縁にまで押し込まれ、しかしその後は粘りに粘って、一進一退を繰り返した。観客席から何度も歓声が沸き、女性司会者が「思わず息を飲む取り組みでした」と会場アナウンスするほどだった。

「不器用で愚直なところが、かわいくて仕方ありません。日頃は大人しくて、柔和な牛なのです」。柿木さんは目を細める。

闘牛場で見せる命の輝き

 久慈市山形町の日本短角種は、本来肉牛として飼われている。オスとして生まれても、多くは去勢されて、生後30カ月未満で人間に食べられる。

 素質を見抜かれて闘牛になり、人々に雄姿を見せられるのは、ほんの一握りにすぎない。

本番前にブラッシング。体がつやつやと輝く

「人間は動物の命をもらって生きています。畜産で暮らしを立てている山形町だからこそ、生きて価値を発揮する闘牛を行う意味がある」と柿木さんは力を込める。チョッパーや白樺王が闘牛場で見せる命の輝きがまぶしいのは、そのせいかもしれない。

写真=葉上太郎