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6割が女性客! 岩手県久慈市の“日本最強の闘牛”に黄色い声援が集まる理由とは?

「平庭嵐が前に出た。豆之介も出ろ。出ろっ」

2019/08/17
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「牛の目で感情が分かるようになりました」

「これ以上やると勝負がつくという時を見極め、がっぷり四つに組むように勢子が持っていきます。それから分けるのです。すると観客が拍手をしてくれる。飼い主も喜んでくれる。楽しかった。また闘いたいという気持ちを牛は抱きます。普通なら退場は負けた方からでしょうが、平庭闘牛では有利だった方を先に出します」。そう話す柿木さんも失敗を繰り返して、ここまでたどり着いた。

 柿木さんらを目標にして、當山さん、市職員の谷崎雄二さん(36)、農協職員の北村智哉さん(34)が手綱を握る。3人は若手のホープだ。

 北村さんは本業でも牛を扱っており、「牛の目で感情が分かるようになりました」と話す。

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若手のホープの一人、北村智哉さん

“牛格”を備えた横綱・白樺王

 平庭闘牛の横綱は、冒頭の豆之介以外にも2頭いる。白樺王(11歳)と若獅子(10歳)だ。両者は8月18日の千秋楽で対戦する。

 若獅子は攻撃力ナンバー1で、元大相撲の朝青龍関をほうふつとさせる。

 白樺王は、実況中継を行う新井谷さんら、市職員有志約60人の「平庭べごっこ倶楽部」で所有している。

こちらも若手のホープの一人、谷崎雄二さん

 新井谷さんは白樺王にべた惚れだ。「久慈市と合併した時、旧山形村の職員組合で何か残したいと、組合員が中心になって倶楽部を結成しました。白樺王は6歳で横綱になり、人格ならぬ牛の格を備えています。攻撃をゆっくり受けるタイプで、まさに横綱相撲です。新潟から譲ってほしいと持ち掛けられたこともありますが、残しました。いろんな場所に姿を見せて、市の観光にも寄与しています。

 牛の1年は人間の4~5年に当たるので、もう40代半ばから50代半ばに相当します。一昨年は体調を壊して引退かと心配されましたが、闘牛場へ来た途端に元気になりました。さすが横綱。まだ何年も頑張ってくれると確信しています」と期待する。

闘いの後、拍手に送られて退場する白樺王。“牛格”があるだけに、既に優しい顔に戻っている

『ONE PIECE』から名付けられた柿木チョッパー

 柿木さんのお気に入りは、自身の農場で飼っている柿木チョッパー(6歳)だ。

 漫画『ONE PIECE』に登場するキャラクターから名付けた。母牛はメスの中でも、ひときわ目立つ存在だった。体が大きいわけではない。角も大きくないのに、放牧場では群れを率いる立場にあった。

 その息子だからと見込んで選んだのだが、「まれに見るケンカべたでした」と柿木さんは苦笑する。