「牛の目で感情が分かるようになりました」
「これ以上やると勝負がつくという時を見極め、がっぷり四つに組むように勢子が持っていきます。それから分けるのです。すると観客が拍手をしてくれる。飼い主も喜んでくれる。楽しかった。また闘いたいという気持ちを牛は抱きます。普通なら退場は負けた方からでしょうが、平庭闘牛では有利だった方を先に出します」。そう話す柿木さんも失敗を繰り返して、ここまでたどり着いた。
柿木さんらを目標にして、當山さん、市職員の谷崎雄二さん(36)、農協職員の北村智哉さん(34)が手綱を握る。3人は若手のホープだ。
北村さんは本業でも牛を扱っており、「牛の目で感情が分かるようになりました」と話す。
“牛格”を備えた横綱・白樺王
平庭闘牛の横綱は、冒頭の豆之介以外にも2頭いる。白樺王(11歳)と若獅子(10歳)だ。両者は8月18日の千秋楽で対戦する。
若獅子は攻撃力ナンバー1で、元大相撲の朝青龍関をほうふつとさせる。
白樺王は、実況中継を行う新井谷さんら、市職員有志約60人の「平庭べごっこ倶楽部」で所有している。
新井谷さんは白樺王にべた惚れだ。「久慈市と合併した時、旧山形村の職員組合で何か残したいと、組合員が中心になって倶楽部を結成しました。白樺王は6歳で横綱になり、人格ならぬ牛の格を備えています。攻撃をゆっくり受けるタイプで、まさに横綱相撲です。新潟から譲ってほしいと持ち掛けられたこともありますが、残しました。いろんな場所に姿を見せて、市の観光にも寄与しています。
牛の1年は人間の4~5年に当たるので、もう40代半ばから50代半ばに相当します。一昨年は体調を壊して引退かと心配されましたが、闘牛場へ来た途端に元気になりました。さすが横綱。まだ何年も頑張ってくれると確信しています」と期待する。
『ONE PIECE』から名付けられた柿木チョッパー
柿木さんのお気に入りは、自身の農場で飼っている柿木チョッパー(6歳)だ。
漫画『ONE PIECE』に登場するキャラクターから名付けた。母牛はメスの中でも、ひときわ目立つ存在だった。体が大きいわけではない。角も大きくないのに、放牧場では群れを率いる立場にあった。
その息子だからと見込んで選んだのだが、「まれに見るケンカべたでした」と柿木さんは苦笑する。