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 近隣の救急車が出払ってしまい、緊急事態に現場に救急車が来なくなる──もしあなたの妻が、夫が、両親が、目の前で倒れたとする。医師でも救急隊員でもないあなたは、意識がない大切な人を前に「やることがない」のだ。

 救急要請を受けてから、現場に到着するまでの時間をレスポンスタイムという。総務省消防庁が行った全国調査のデータによれば、2007年には7.0分であったレスポンスタイムの全国平均値が、2017年は8.6分と、10年で1.6分も延伸されている(図1-4)。

図1-4 救急車の現場到着時間と病院収容時間の推移(全国平均)

 救急隊員も、いかに現場に早く到着するかという点に頭を悩ませている。

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 東京消防庁では、2016年より救急隊の現場到着時間を短縮させるための取り組みの一つとして、時間帯によって救急隊の待機場所を変更している。たとえば、日中の時間帯は救急要請が多い「東京駅エリア」に、夜間は深夜まで多数の人が集まる「新宿エリア」に救急隊を待機させている。その結果、東京駅や新宿エリアに限れば0.8分〜1.8分の短縮効果が得られた。しかし東京消防庁全体でみると、2017年は前年比で11秒、2018年は前年比で7秒の短縮にとどまっている。

 119番に通報してから現場に到着するまでのレスポンスタイムは10分を超え、東京都は全国ワーストだ。「救急」としては遅すぎると言わざるを得ない。

©iStock.com

 心肺停止患者の蘇生のチャンスは1分経過するごとに7〜10分低下し、10分を超えると絶望的という海外の報告もある。このままのペースで現場到着時間が延伸していくと、国内の救急車は「蘇生が期待できる時間内」に駆けつけられない事態に陥る可能性が高い。

ガイドラインに遠く及ばない実態

 それでは、何分で到着するといいのだろうか。

 世界各国から専門家が集まり、医学的根拠をもとに作られた国際コンセンサス(公式声明)がある。それをもとに、日本の状況に照らし合わせて作成されるのが「JRC蘇生ガイドライン」だ。

 そこには「救急通報から救急隊が現場に到着するまでの時間を6.7分から5.3分に短縮したところ全心停止傷病者の生存率が33%改善した」と記されている。しかしながら、そもそも短縮前の6分台を達成しているのは京都のみで、どの地域もガイドラインで示される研究例からは程遠いのが現状だ(表1-1)。また、「身体的疲労のため、市民は5〜6分で胸骨圧迫できなくなる」ともいわれている。

表1-1 都道府県別にみた救急車の平均現場到着時間

 119番の通報から救急隊の現場到着までの時間で目指すべきは6分台だろう。これは、2006年以前には達成していた数字でもある。そして死守すべき最低ラインは、前述した総務省調査で「救急隊による心肺蘇生開始までの10分超えが生存率を低下させる」ことが明らかな以上、10分以内におさめることだと考えられる。

 先に東京消防庁の例を挙げたが、こうした状況に対して、国や各自治体が手を打っていないわけではない。毎年、各地域で救急隊が増強されているものの、焼け石に水の状態だ。これから救急出動件数がますます増加していくなかで、「現状よりも早く」駆けつける、根本的な解決につながる策は見つけられていない状況だ。