文春オンライン

救急車を呼んでよい場面、ダメな場面……あなたには判断できますか?

『救急車が来なくなる日』――2025年、救急医療崩壊 #4

2019/09/10

genre : ライフ, 医療, 社会

note

軽症な顔をしていても……

 そもそもすべての問題の根源は、救急車が必要かどうかを患者側に判断させる仕組みにあるのではないか。筆者がそのような疑問をぶつけてみると、何人もの医師が同調してくれた。

 

湘南鎌倉病院の救急救命士

湘南鎌倉総合病院の山上医師は「患者が自分で救急だと思ったら、救急車を呼ぶべきだ」という理念を持つ。

ADVERTISEMENT

「遠慮して救急車を呼ばずにタクシーで来る人もいますが、危ないと感じることがあります。胸が痛い、背中が痛いと訴える人のなかには、血管が裂ける大動脈解離を発症している人が時々います。体を動かすと血管はいっそう裂けやすく、突然死につながります」

 救急車では、患者が横たわって運ばれるために比較的安静を保たれることに加え、モニターをつけて搬送させるので呼吸や心臓に異常があった時の対処が早い。さらに、救急隊から連絡を受けることで、受け入れ先の病院も準備を整えやすいという利点もある。

 同病院救命救急センター顧問を務める大淵尚(おおふちひさし)医師も、「判断を患者に任せること」に疑問を呈する。

湘南鎌倉総合病院救命救急センター顧問・大淵医師

「一般の人が、自分で軽症だ、重症だとどうして判断できるんでしょうか。軽症という顔をして、実は重症のケースなんていうのは山ほどあります。私が診た患者さんでも、大動脈解離や心筋梗塞などの命に危険が迫っている状態で、歩いて救急外来に来た人もいるんです」

 大淵医師は、病院側が「軽症者は診ない」という姿勢では、隠れた重症者が手遅れになるとも心配する。

 たとえば、あなたが夜間に急な腹痛を起こしたとしよう。夕食は同僚といっしょに珍しいタイ料理店に行き、そこで少々食べ過ぎてしまった。食あたりかもしれないし、単に食べ過ぎたのかもしれない。けれども、今まで経験したことのないような痛みがある。胸のあたりが重たく、腹がしぼられるように時々痛むのだ。救急車を呼ぶほどの強い痛みではないが、このままベッドで横になっていても眠れそうにない、痛みも増しているような気がする、といった具合だ。

©iStock.com

 こんな時、あなたならどうするだろうか。自分が軽症患者なのか、あるいは中症・重症患者なのか、判断できないに違いない。実際、医学的にも判断は難しい。患者自身が考えているように、食あたりや食べ過ぎの可能性もあるし、腹部の突発的な病気、あるいは心筋梗塞の可能性だってある。