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救急車を呼んでよい場面、ダメな場面……あなたには判断できますか?

『救急車が来なくなる日』――2025年、救急医療崩壊 #4

2019/09/10

genre : ライフ, 医療, 社会

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患者側に判断を押しつける制度

 自分で症状を話せない、幼い子供の場合はなおさらわからないだろう。

 幼子に高い熱がある。いつもよりぐったりしている。よく思い返すと、今日はほとんど水分をとれていない。このまま朝まで待っていて大丈夫だろうか──親のあなたは、夜になってますます不安が増していくはずだ。

 あるいは、熱はないものの、やけに激しく泣く夜はどうだろう。どこか痛いのかどうか、子供は泣きじゃくっているばかりで、親には何もわからない。あなたは家族を起こして相談するはずだ。

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「救急車の適正利用」の議論自体は必要だろう。しかし、電話やネットでの救急相談、つまり一般の人に緊急性があるかないかを判断させる形が、必ずしも望ましいとは思えない。

CT撮影(湘南鎌倉病院)

 実は、筆者も2019年5月に似たような事態に直面した。出張先で両耳の下が急にズキズキと痛みだし、緊急に病院を受診すべきかどうか悩んだ。そこでウェブの「救急受診ガイド」をのぞいてみると、「はじめに」に次のような言葉があった。

 病院に行った方がいいのか、行くならば、救急車を呼んだ方がいいか、自分で病院やクリニックを受診した方がいいか、どれぐらい急いで受診した方がいいかなどについて判断することは、なかなかむずかしいものです。

 まさしく、当時の筆者の状態である。しかし、最初の項目で、「(いつもどおり)ふつうにしゃべれていますか? 声は出せていますか?」という問いがあり、さっそく迷ってしまった。もちろん意識は鮮明なのだが、両耳の下が痛すぎて“ふつう”にはしゃべれない。しかしここで「いいえ」と回答すると、「いますぐ救急車を呼びましょう」と出てしまう。

©iStock.com

 仕方なく「はい」と選択し、そのほかいくつかの確認事項に答えて、症状のページに進むと、また考え込んでしまった。腹痛や発熱、「呼吸が苦しい」などの症状はあっても、「両耳の下が痛い」といった項目が見当たらないのだ。体調が悪い時に、それ以上検索することができず、結局そこで中断してしまった。

 このガイドには「ご自身の判断の一助になることを目的に編集・発行した」と書かれている。その言葉どおり、どの医療機関・診療科を受診すればいいのか、そもそも今すぐ病院を受診したほうがよいのか、救急車を呼ぶべきかどうか──現状これらは、すべて「患者側」が判断しなければならない仕組みなのだ。