昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「商品の入れ方がおかしい」というクレームが「慰謝料100万円よこせ」に――コンビニ店主の悲鳴

“カスハラの現場” コンビニ店主・川上さん(仮名・50 代男性)の事例

警察には「何か起こらないと対応できない」と。

 対応に困った川上さんは、まず警察に連絡した。「店に来て大声を出すなどしたら、すぐ出動しますから」。案の定、何か起こらないと対応できないと言われた。

 次に、知り合いの弁護士に相談した。

「それは恐喝に近いから、今後も続くようであれば対処します」

 やり取りの音声や画像を残しておくように、アドバイスされた。何時何分に電話がかかってきたか、時系列で控えておくように言われ、その通りにした。

 コンビニチェーンの本部にも連絡し、経緯を伝えた。ビデオなども見てもらい、店や川上さん側に責任がないことを確認。お金は払えないし、一応の謝罪をすることでしか対応できないという結論になった。本部から先方に電話してその旨を説明し、

「もうこれ以上、電話しません」

 と通告して以降、連絡はとっていない。本部の担当者も、前例のないケースで相当悩んでいたという。

 ところが、店には相変わらず電話がかかる。

「カネの件はどうなった?」

「対応は本部ですると言われているので、こちらではもう何もできません。本部と話して下さい」

 と切っても、翌日またかかってくる。

 クレームを受けた経験は、過去にもあった。食品に虫が混入していて返金したり、菓子折りを持って自宅を訪問したり、その都度解決してきた。同業者に相談しても、「慰謝料として100万円請求されるなんて、聞いたことがない」という返答ばかりだった。

心労とストレスで3キロ痩せて、酒量は増えた

 以後も電話は続き、心労やストレスを感じた川上さんは、3キロ痩せたという。イライラのせいで食事は喉を通らないが、酒量は増えた。

「もう疲れたというか、いつまで続くんだろうなって。僕が『もうほかのお店を利用してもらえませんか』と言ったことでカチンと来たんでしょうけど、ウチの店に来て不快な思いをされるのであれば、という思いもあったんです。

 あそこまでやる目的が、まったくわかりませんでした。最初は、ただ大声を出したいのかなって思ってました。目的はクレームじゃなくて、憂さ晴らしだと。僕より上の立場でいたいんだろうなっていうのは、ずっと感じていました」

 最終的に、弁護士から警告を発してもらうと、電話はピタッと止やんだ。来てほしくない客が来なくなり、連絡も途絶えたから、安堵はある。

「安心してレジに立っていられるっていうか。一時はもう、電話が鳴るとビクッとしてたんで。

 これで収まれば、本当によかったなと思います。けれど、根本的に解決したという手応えはありません。突然ピタリと嵐が止まった感じですから、怖さはまだ残ってますね」

 しかし、相手が正当なクレームだと確信していれば、こちらが弁護士を立てようとも、言い分を通そうと戦うはずだ。急におとなしくなってしまったのは、無理難題だと自覚していたためではないのか。だとすれば、自分は何のために苦しめられたのか。釈然としない思いを、消すことができない。

 最近の出来事だけあって、川上さんの声からは本当に疲れた様子が伝わってきた。

◆日本中で起こっている「カスハラ」の対策と改善例は『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』に収録されています。

カスハラ―モンスター化する「お客様」たち

NHK「クローズアップ現代+」取材班

文藝春秋

2019年8月29日 発売

この記事の写真(2枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー