警察には「何か起こらないと対応できない」と。
対応に困った川上さんは、まず警察に連絡した。「店に来て大声を出すなどしたら、すぐ出動しますから」。案の定、何か起こらないと対応できないと言われた。
次に、知り合いの弁護士に相談した。
「それは恐喝に近いから、今後も続くようであれば対処します」
やり取りの音声や画像を残しておくように、アドバイスされた。何時何分に電話がかかってきたか、時系列で控えておくように言われ、その通りにした。
コンビニチェーンの本部にも連絡し、経緯を伝えた。ビデオなども見てもらい、店や川上さん側に責任がないことを確認。お金は払えないし、一応の謝罪をすることでしか対応できないという結論になった。本部から先方に電話してその旨を説明し、
「もうこれ以上、電話しません」
と通告して以降、連絡はとっていない。本部の担当者も、前例のないケースで相当悩んでいたという。
ところが、店には相変わらず電話がかかる。
「カネの件はどうなった?」
「対応は本部ですると言われているので、こちらではもう何もできません。本部と話して下さい」
と切っても、翌日またかかってくる。
クレームを受けた経験は、過去にもあった。食品に虫が混入していて返金したり、菓子折りを持って自宅を訪問したり、その都度解決してきた。同業者に相談しても、「慰謝料として100万円請求されるなんて、聞いたことがない」という返答ばかりだった。
心労とストレスで3キロ痩せて、酒量は増えた
以後も電話は続き、心労やストレスを感じた川上さんは、3キロ痩せたという。イライラのせいで食事は喉を通らないが、酒量は増えた。
「もう疲れたというか、いつまで続くんだろうなって。僕が『もうほかのお店を利用してもらえませんか』と言ったことでカチンと来たんでしょうけど、ウチの店に来て不快な思いをされるのであれば、という思いもあったんです。
あそこまでやる目的が、まったくわかりませんでした。最初は、ただ大声を出したいのかなって思ってました。目的はクレームじゃなくて、憂さ晴らしだと。僕より上の立場でいたいんだろうなっていうのは、ずっと感じていました」
最終的に、弁護士から警告を発してもらうと、電話はピタッと止やんだ。来てほしくない客が来なくなり、連絡も途絶えたから、安堵はある。
「安心してレジに立っていられるっていうか。一時はもう、電話が鳴るとビクッとしてたんで。
これで収まれば、本当によかったなと思います。けれど、根本的に解決したという手応えはありません。突然ピタリと嵐が止まった感じですから、怖さはまだ残ってますね」
しかし、相手が正当なクレームだと確信していれば、こちらが弁護士を立てようとも、言い分を通そうと戦うはずだ。急におとなしくなってしまったのは、無理難題だと自覚していたためではないのか。だとすれば、自分は何のために苦しめられたのか。釈然としない思いを、消すことができない。
最近の出来事だけあって、川上さんの声からは本当に疲れた様子が伝わってきた。
◆日本中で起こっている「カスハラ」の対策と改善例は『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』に収録されています。