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丸山 以前、都築響一さんと対談させて頂いた際に、「最近はすべてを説明しすぎ。知らなきゃ調べるでしょ」と言われて、なるほどなと。特に写真集はある程度の意図は必要かもしれませんが、一枚の写真がきっかけで自分の中の何かが引きずり出されて目覚めたりする。名越さんの言う、「もっと自由でいい」というのも分かる気がします。

蛇はヒンドゥー教における神様のひとつ。撮影が終わると、蛇にお布施を与えてやれとしつこく催促された。

——まだ続けてインドを撮る心づもりはありますか?

名越 今はまだ考えられませんが、またインドを撮るならマハラジャとか映画スターとか、ド派手な金持ちを狙いたいですね。

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丸山 俺も今、フィリピンの上流階級にアプローチをしています。貧乏な方からじゃなくて、金持ちの視点から見たらフィリピンをどう捉えられるのか。企画を構想してから2年くらい経って、やっと繋がりができ始めた。コネクションを作るために、飲むためだけでマニラに飛んだりするんですよ。やっぱりこういう過程こそが面白い。フィリピンって、これまで行ったどの国よりも肌に合う。めちゃくちゃな常識を笑い飛ばせる根明なパワーがありますね。

名越 フィリピン、いいですよね。最高やないですか。自分もスモーキーマウンテンに10年通って、最初はなんでこんなに酷い環境で笑ってるんだろうって気持ち悪くなった。だけど、奥を知るうちに赤塚不二夫さんじゃないけど、「これでいいのだ!」というマインドを強く感じました。

丸山 聞いた話で、タイの工事現場に出稼ぎに来たフィリピンの労働者に個室を与えたら、ノイローゼになってしまった。フィリピンは雑魚寝文化だから、みんなで寝た方が精神的に落ち着くようなんです。環境の良し悪しって自分たちの価値観だけじゃわからないもんですよね。

名越 イギリス人の金持ちがスモーキーマウンテンに訪れて、ある住人に高級マンションをポンっとプレゼントしたらしいんです。6人家族が移り住んで、でも1週間で戻ってきた。「なんで?」と聞いたら、居心地が悪かったみたいで。ものの見方や常識は場所場所で変わることを思い知らされましたね。

——最後はフィリピンの話で締めますか。やっぱり、インドはそんなに……。

名越 いやいや、好き、ですよ(笑)。

『バガボンド インド・クンブメーラ 聖者の疾走』

名越啓介 (著), 近田拓郎 (著)

イースト・プレス

2019年8月7日 発売