丸山 これまでの名越さんのスタイルとはまた違う撮影になりますよね? 圧がかかるというか、人の波に呑み込まれる訳ですから。
名越 考える暇なんてないから、とにかく反射神経で撮るしかない。目の前のものを全部撮ってやろうと。また別の頭で、祭そのものというよりは、周辺にこそ撮るべきものがあるはずだと意識した。この視点はずっと持ち続けていました。
丸山 その感覚は俺にもよく分かります。結局、過程の方が面白い。宝探しは宝箱を開ける瞬間より、見つけるまでが醍醐味というか。宝箱を開けちゃったらそれで終わりですからね。
名越 一生懸命やり過ぎちゃった悔いが少なからずあります。宿泊したキャンプにイタリア人のおば様3人組がいてて、「ストレンジャーはどこだって?」と聞いてきたんですよ。ストレンジャーって酷い言い様だなと思ったけど、彼女たちの後にくっついて撮ったら、また別の見え方で写真が撮れたかもしれません。
丸山 突っ込んでいって、ふっと後ろを振り向いたり、少しだけ離れてみたり。すれすれまで近づいて、あえて視点を変えた瞬間にこそ、見えない何かが見える時がありますよね。
名越 特にクンブメーラのような身動きが取りにくい現場だと、突っ込んで一歩引く視点は重要だと思います。『バガボンド』で自分が一番気に入っている写真は何かというと、クンブメーラに突っ込んだ写真じゃなくて、意図せずに立ち寄った寺院で少年と少女がキスをしているもの。女のコの方がギュッと力強く抱きしめている。この写真はクンブメーラという目的の周辺にあるもので、写真を撮ることはやっぱりそういうことじゃないかと思います。
丸山 そう言えば、『バガボンド』の掲載写真にはほとんど文章が載っていないですね。
名越 写真は想像力で楽しむものじゃないですか? インドってそもそもの意味合いが強くて、見方を限定してしまう恐れがある。もっと自由でいいと思うんですよ。文章と写真の違いというか、写真の場合は説明的になりすぎるとつまらなくなるじゃないですか?