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丸山 有り得ないことが、普通にあり得るのがインドじゃないですか。当たり前のように喧嘩もするし。

名越 喧嘩といっても暴力的な匂いはしないんですよ。そこがまた良くて。

丸山 インドだと一時期、サドゥ(ヒンドゥー教の修行者の総称)に興味を持って調べたことがあったけど、よくわからなかった。言語化するのが俺の仕事だから、取材対象にするにはちょっと難しいと判断しました。

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名越 サドゥって、ホンマに説明するのが難しい。ひと言で「聖者」とすれば簡単だけど、そうじゃない部分もあって、むしろそっちの方が面白い。あるサドゥは撮影している最中にふとポケットを見たらカメラのフィルムが入っていて、明らかに自分のですよ。「それどないしたん?」と聞いたら、拾ったんだって。「嘘やろ?」と詰めたら、謝って返してくれたんですよ。もうデタラメじゃないですか?

丸山 俺のサドゥ体験は世界遺産で有名なカジュラホで、首から何本も糸を下げてアソコの皮に引っかけて全裸で闊歩していた強者ですね。アソコがラッパみたいに広がって吊り上げられていました。

名越 アソコの芸はよく見かけます。鉄の棒を皮に巻き込んで、その上に別のサドゥを乗っける荒業は鉄板というか、定番というか。

丸山 撮影中にサドゥとのコミュニケーションは?

全裸に白い灰の粉を塗りこんだシヴァ派のサドゥ。手の持つのは孔雀の羽で、巡礼者が訪ねると頭をポンポンと撫でて、お恵みを頂く。

名越 ほとんど会話はないですね。気持ち的には修行です。考えるより前に、撮ってしまう。2010年には白バックを立てて3日間で煩悩の数だけ108人。今年も同じやり方で100人以上のサドゥを撮影しました。

——『バガボンド』の後半は、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている世界最大の祝祭・クンブメーラが主になっています。

丸山 もちろんクンブメーラを知ってはいましたけど、実際はどうでした?

名越 滞在した約2週間で、一生分の人間とすれ違った実感があります。現地では1億人を超える人々が集まったと報道されていましたが、嘘じゃないと思わせる混雑ぶりでした。