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「昭和な中華料理店」が消えている…… 南阿佐ケ谷の“小さなラーメン屋”を守る70代夫婦の思い

B中華を探す旅――南阿佐ケ谷「和佐家」

2019/09/13

genre : ライフ, グルメ

note

ビールが進むニラ餃子が絶品!

 それにしても、この夫婦の連携は見ていて気持ちがいい。無駄な動きが一切なく、それぞれ、やるべきことを流れるようにこなしているのだ。たまに意見が食い違い、小声でディスりあったりもしているのだけれど、それも仲のよさの証だという気がする。

 ほどなくして登場したニラ餃子は、焼き加減が絶妙。焼きあがるまで、まめに蓋を開けてチェックしていただけのことはある。味もニラの香りが非常に強く、ビールがどんどん進んでしまう。

焼き加減が絶妙なニラ餃子 

 新しいお客さんが、次々と入ってくる。場所的には決して好立地ではないし、行列ができるような店でもないのだが、ぽつぽつと人が絶えないのだ。

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70年以上の歴史がある中華料理店

 お昼どきの忙しさも一段落したころ、おふたりに声をかけてみた。ご主人の佐々木英世さんは、昭和19年生まれの75歳。そして、奥様の和子さんが72歳。現在の場所に来たのは、昭和63年(1988年)だという。

 だから32年目ということになるが、それ以前は杉並区役所の青梅街道を隔てた真向かいで“昭和20年ぐらい”から営業していたそうだ。つまり、数百メートル移動した程度。いずれにしても、70年以上の歴史があるわけだ。

調味料も清潔で気持ちがいい

 ちなみに昔は和菓子店で、奥様の和子さんのご実家。やがて団子やあんみつを売りはじめ、その流れで中華料理店になったとのこと。

「僕は婿養子ってわけじゃないんだけど、結婚を機にこの家に入ったんですよ。だから姓は、僕の佐々木の姓になってる。向こうは馬場で、義父は馬場佐太郎さんと言うんですよ。それでこの人が和子でしょ。だから佐太郎の「佐」と「和」を取って、『和佐家(かずさや)』です。46年に結婚したんだっけ?」

「そうそう」

毎朝ていねいにだしをとり、麺にもこだわる

 聞けばご主人の英世さんは、台東区の三ノ輪出身。三ノ輪と南阿佐ケ谷では少しばかり距離があるが、聞いてみればおふたりの出会いはなかなかユニークで、そして素敵だ。

 英世さんは、もともと東急電鉄に勤める駅員だった。まだ自動改札などない時代だったため、切符切りをしていた。勤務は一昼夜交代制だったが、朝の8時半に仕事を終えたとしても、若かったから体力があり余った状態。そこで「陣馬高原にでも行こうか」という話になって(いきなり陣馬高原を目指そうという馬力がすごい)友人と出かけたら、そのとき、やはり友人と2人連れでいた和子さんと出会ったというのだ。

和子さんが、この冷蔵庫から冷えたビールを出してくれる

「それで知り合ったんです」

「私は18だったよ」

「僕は3歳上だから21だったんだけど、そこから7年ぐらいつきあったの。でも一人娘だから、なかなか(結婚を)許してもらえなくて(笑)」

 だが、やがて「こっちに住むならいい」という条件を提示される。当時いた従業員が独立することになったため、跡取りとして入ったのだ。

「だから、うちのおかあちゃんが僕の先生です。料理の先生」

定食のほか、オリジナルの「ざるラーメン」も人気 

 英世さんは謙遜するが、いまや熟練の職人である。毎朝、鶏と豚のガラ、鰹節、煮干し、野菜を使い、ていねいにだしをとっている。麺は、数十年のつきあいがある製麺所のものだ。