昨年7月、86歳(当時)の店主がひとりで切り盛りしていた近所の小さな中華料理店が暖簾を下ろした。昭和の時代ならどこの町にも一軒はあったような、いわゆる「町中華」だ。
しかし、私にとってその店は一般的な町中華を超えていた。なぜならその店は、中華料理屋とかラーメン屋とかいう以前に「コミュニティ」だったからだ。そんな居心地のいいコミュニティのことを、勝手に「B中華」と呼んでいた。
参考までに書き添えておくと、「B中華」の「B」は、もちろんB級のBである。しかし、当然ながらこれは最上の褒めことばだ。
ちなみに「B中華」を定義するとすれば、こんな感じになる。
・ 大前提の昭和感
・ ビールと餃子で落ち着ける
・ 店主や常連さんと仲よくなれることが目標
・ もちろんラーメンにも期待
・ ただし雰囲気重視なので、味には妥協してもよい
昨年、あの店がなくなり、「B中華」の概念だけが残った。だからそれ以来、B中華の新たな名店を探すことにしたのである。
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東京メトロ丸ノ内線の南阿佐ケ谷駅2a出口を出て、目の前の青梅街道を荻窪方面に10分ほど進むと右側に、店名が白く抜かれた真っ赤な店舗用テントが見えてくる。お目当ての店「和佐家」だ。
アルミサッシの引き戸には、「ラーメン」の文字が際立つ赤い暖簾。外見的には「B中華」としての基準を見事に満たしている。
キビキビと働く老夫婦と心地よい緊張感
引き戸を開けてみると、目に飛び込んできたのはキビキビと忙しそうに働く老夫婦の姿。意外なほど活気がある。黙ってこちらをチラッと見たご主人の視線が鋭い。とはいっても、決して嫌な感じではない。それどころか、こういう緊張感って好きだわー。「こうでなくっちゃ」という気がする。
右側には厨房を囲むようにL字型のカウンターがあり、その向かいにテーブル席。頭上からは、そこだけ騒がしいテレビの音。
ビールを頼むと、「なににしますか? ヱビス? アサヒ? サッポロ?」と聞かれた。複数の銘柄を揃えているあたりが頼もしい。もちろん、返答は「ヱビスで」。
「これ」と奥様から差し出されたもやしの小皿を受け取り、ビールを流し込むと、なんだかうれしくなってニヤッとしてしまった(怪しいよ)。