ガイドに「トイレはどこ?」と聞くと、遠くに群生するススキを指差した。ススキの裏で隠れて野ション野グソができるというわけだ。高層ビルに囲まれた都会っ子のシンガポール人女子たちと東京人の私は「トイレに行ってくる」の遠回しな言い方「Nature calls me」を違和感なく使える大自然に感動して、その表現を多用しては爆笑した。
世界各国、トイレがなく野グソを余儀なくされた場所は多々あれど、これほど気持ちよかった野グソは他にはない。どこまでも広がる草原や遮るものが何もない広い空を眺めながら、9月の肌寒く乾いた風がお尻を優しく撫でてゆき、身も心も自然に解放される感覚に包まれ、いつまでもうんこをしていたくなる。いきんでる最中に放牧中の羊が興味津々で覗きにくることだけが難点ではあるが、この体験は力いっぱいオススメしたい。
シラムレン草原で牛のうんこ拾い
乗馬や弓矢で遊び疲れて、日が斜めになり影が長くなってきた頃、ガイドがみんなに声をかけた。
「そろそろみんなでdry cow piesを集めるよ。今夜の焚火の燃料として使うから、fresh cow piesじゃなくて、dry cow piesだけ拾ってね」
そう言いながら指差したのは、牛のうんこ。パイは食べ物のことじゃなくて、うんこのことだった。まん丸で平たい形は確かにアップルパイのように見えなくもないか。後日アメリカの友人に聞いたところ、婉曲表現で牛の糞のことを「cow pies」と言うそうだ。ちなみに馬の糞は「horse biscuit」。パイとビスケットを純粋な目で見れなくなりそう。
ガイドが「じゃあ、うんこを拾う係と籠を背負って運ぶ係、どっちがいい?」と言った瞬間、ツアー参加者の間で微妙な空気が流れた。籠の隙間から粉になったうんこが落ちてくることは想像に難くない。
一部のツアー客は素早く鍬に手を伸ばしている。皆うんこまみれにはなりたくないし、ここは公平に弓矢で勝負するしか……と考えていたら、空気を読んだ日本人青年が苦渋の決断を下したような顔で「俺がやります!」と立ち上がった。なんて優しい子なんだ。