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「増えすぎたサルが、クマを囲んで威嚇している」白山のクマ猟師が語る“狩猟文化”の現在地

「増えすぎたサルが、クマを囲んで威嚇している」白山のクマ猟師が語る“狩猟文化”の現在地

猟師は年々減っているが、狩猟は一つのコミュニケーションでもある

2019/10/14
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畑の作物も、美味しいところだけかじって捨てる

 猟師は通常の狩猟の他に、有害捕獲、いわゆる駆除を任されることもある。獣害に悩まされる地域は多いが、被害を与える動物には様々な種類がある。イノシシに悩む地域は多いし、シカやカモシカの被害が深刻といった場所もある。

 ここ白山周辺では、サルによる被害が深刻だという。我々もきのこ狩り取材の際に、サルの群れに出くわしている。猟師としての山々を歩いているご主人が語る。

「サルは本当に増えましたね。僕らが狩りをやっている範囲では10個ぐらいの群れがいます。昔は、僕らの前に子連れで姿を現すことなんてなかったですけどね。今では平気で子ザルを抱えて道ばたを歩いているでしょう。

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 皆さんも実際に見られたと思いますけど、あれを獲らせてくれれば……。僕がよく言うのは、サルを1年か2年、狩猟獣にして獲ってしまえば減るんだけど(注:ニホンザルは非狩猟獣で狩猟では捕れない)。あまりに増えすぎて、サル、クマ、イノシシもどんぐりとかブナの実を共通して食べるから、クマなんかの底意地が悪くなるかな。

サルの姿はあちこちで見かける

 僕も見たことあるけど、クマが1匹木に上がっていて、サルが輪になって威嚇しているのね。どんぐりを食べているクマを。多勢に無勢なんだろうね。サルはすごい剣幕で怒っているの。今の時期、まだどんぐりが落ちてないから枝に上がるんです。サルが枝に上がったって、ちょっと飛べば隣の枝ですけど、クマはそれできませんから、上がった木を必ず降りてくる」

 サルの群れに威嚇されるクマというのも想像するだけでもすごい絵面だが、他にもサルの厄介さを窺わせるエピソードは事欠かない。田畑を守る電気柵をショートさせて無効化してから侵入するサルまでいるという。また、サルは「行儀の悪さ」も際立つ。人間が全部食べるような大根やトウモロコシを、美味しいところだけかじって捨てていく。他の獣と異なり、頭が良くて大集団なだけにたちが悪い。

最近のクマは「餌さえあれば、ずっと冬眠しませんね」

 だが、人の生命に危害を与えるという意味では、サルよりもクマが恐ろしいのかもしれない。奇しくも筆者らが白山滞在中、宿に置かれた地元紙・北國新聞を手に取ると、「〔クマ注意情報〕人里に寄せつけぬ心掛けを」と題した社説が掲載されていた。今年はクマの食料となる木の実の不良が予想されるため、クマの人里への大量出没に注意を促すもので、地域にとってクマは深刻な問題であることをうかがわせた。

地元の北國新聞に掲載されていた社説。クマの動向は大きなニュースだ

 暖冬であるがゆえに「餌さえあれば、ずっと冬眠しませんね。それで穴に入ったクマも早く出てきます」という。

 ご主人も、猟以外で山に入る時は注意を怠らない。

「とにかく、山に行ったら自分で自分の身を守るしかないんで、僕らは銃を持っているとクマは来ないけど、銃を持っていない時は必ずラジオをつけるか、蚊取り線香を炊くか、今は小さいCDなんかを外で流しますね。一番いいのは、匂いか音しかないんです。

 一番ありうるのが、山の尾根を曲がるような時にいきなり出会うんです。直線の時は、僕らが静かにしても、あっちの方が先に気付くからいいんだけど、曲がり角では出会い頭があるから、咳払いでもして自分の存在を相手に教えないといけない。

岩間山荘に飾られているツキノワグマの剥製

 こんなの(注:大人のクマの剥製を指して)に出会ったら『ごめんさい』するしかないでしょ。銃を持っていれば別だけど。僕の連れでも、目がなくなったとか、顔をやられたとか何人もいるんで。そりゃもう自分で防御するしかない」