今シーズン最大の問題作が『カルテット』だ。誰も異論は唱えないだろう。
松たか子、松田龍平、満島ひかり、高橋一生という、実力と個性、ともに備えた四人が顔を揃えた。そして脚本は坂元裕二だ。
カラオケボックスで偶然に四人の三十代音楽家が出くわして、弦楽四重奏団を結成する。そんな出だしからして、テーマは“嘘と秘密”だと宣言してるようなものだ。
第一ヴァイオリンの巻真紀〈まきまき〉(って、すごい名前だ)を演じるのは、松たか子。真紀の夫は失跡中だが、姑〈もたいまさこ〉は真紀が殺したと疑っている。サスペンスを前面に押しだすかと思えば、脱力系の会話劇が延々つづく。
唐揚げにレモンをかけるときは、どうするか。ヴィオラ弾きの家森諭高〈高橋一生〉が語りだすと止まらない。アジフライには醤油とソース、どっちがいいとかね。
唐揚げレモンって、私たちも飯を食いながら、よく喋るよ。そんな他愛ないギャグでも、演技派の四人なら奇妙な笑いになるという計算か。
軽井沢の別荘で交わされる仕様もないコントを楽しめるか、どうか。これが好悪の分かれ目だ。他にもハードルは多い。チェリストの世吹すずめ〈満島ひかり〉が怪しいと思ったら、もたいまさこに頼まれて、四人の会話を録音するバイトをしていた。だが意外性はさほどない。
しかし女と男の出会いや別れを巡る考察をちりばめた会話が始まると、全員が芸達者だから、つい台詞に聞き惚れてしまう。三十秒の短い言葉に、三十分ドラマ一本分の内容が詰めこまれている。
第三話ではペテン師だったすずめの父が死に、四話では家森の離婚の経緯が明かされる。二話とも、しんみり泣かせるいい話なんだ。でも、これで終ったら、サスペンスの要素は一気に薄まる。
このままだと、一番の儲け役は、ライブレストランで働く、ひと癖ある従業員の来杉有朱〈吉岡里帆〉になりかねない。四角関係の切なさを繊細に描きながら、真紀の夫は誰に殺されたかの謎解きを絡ませていくのは、手練れの脚本家でも至難の業だ。
しかもそこにトイレのスリッパやゴミ出し問題といった意味ない会話を挿入するのだから、難度は増すばかりだ。一言でいうと、不自然なドラマ。『逃げ恥』の逆だ。不自然な会話や演技から、ときに笑いと切なさを伝える役者に感服する。奇妙な力作である。