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連載昭和の35大事件

「押し入れの中で骨を鋸で挽き……」残虐すぎる解体殺人を後押しした“背筋が凍る舌打ち”

「この足が母を蹴ったのだッ。そして妹の子を殺したのだ」

2019/10/20

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, メディア

“事件の虫”楠本が語った事件のキーワードは「鰯の鱗」

 市太郎は福井県大野郡郡町の生れで父は建具職で彼も家の業を継いで建具職で腕もよかった。大正3年金沢野砲九連隊に入隊し上等看護兵で除隊した。上京してからは、器用な男で春画を書いて浅草の暗闇で通行人に売り歩いて生活費を稼いでいた。最後に市太郎逮捕を記そう。

 水上署管下の枕橋水上派出所石賀巡査が言問橋附近でルンペンを集めて、被害者のモンタージュ写真を見せて、この男に覚えはないかと尋ねていると、居合せた2、3人のルンペンが、この男は10歳位の娘を連れた千葉竜太郎と云う男と証言したのが端緒となって、索線の糸を手繰ってゆくと、竜太郎が市太郎の家に世話になり、あの事件の頃から、姿が見えなくなったなどによって、市太郎に疑いがかかり逮捕となったものである。

 こうした事件は、被害者の身元が割れさえすれば犯人は、糸を手繰るように判るのが捜査の常道である。「事件の虫」楠本は、その直後、例の手帳をとり出して、鉛筆の先を舐めこの事件で、自分の勘の通りピッタリ適中していた点、自分の勘と実際が違っていた点などを克明に分析して、彼一流の捜査資料をつくっていた。そして、筆者がその手帳をのぞきこむと、ニッコリ笑った彼は、

「鰯の鱗の勘は、名探偵だったな。火鉢の上に金網を乗せ、その上で焼けた鰯を皿にとらずに、熱いやつをふうふうふきながら食うのは、東京の下町の貧乏世帯の夕餉時によく見る風景だよ。俺の勘にもいいところがあるね……」と鼻をくんくんさせたが、その警視庁記者会の名物男も今はいない。もう、こんな赤ダネ記者は、2人と出ないであろう。

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※記事の内容がわかりやすいように、一部のものについては改題しています。

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