文春オンライン

子どもの「いる人」と「いない人」の分断を起こさないために

年間出生数「90万人割れ」の衝撃と受け止め方

2019/10/11
note

社会全体で子どもを育て、育む仕組みが必要

 まあ、実際そういう私も、独身の時代に妻帯者や子持ちが「子どもが熱を出したので帰ります」とか「送迎があるので今夜の会合は伺えません」などと言われたときはイライラしたもんです。思い返せば、相手には家庭があり、父親母親としての立場があって、責任を背負っているから仕事は後回しで当然なのだということが理解できないでいました。結婚して子どもができてはじめて「げ、これは仕事どころではないぞ」ということが多発して、意識が一気に改まるわけですが。

©iStock.com

 そして、社会の分断というのは、やはりこういう立場を超えて生き方・働き方に対してどうお互いに受容していくのか、相克を克服していくのかにすべてがかかっているように思います。日常的に目にするマタハラ(妊婦に対する職場などでの嫌がらせ、ハラスメント)や、地域で子どもを育てるときに起きるママ友問題など、単に相手を尊重しましょうということだけではなく、なるだけ理解を深めよう、相手に歩み寄ろうという社会にしていって、社会全体で子どもを育て、育む仕組みにしていこうという流れにならないと、少子化対策など仮に予算があってもなかなか進まないと思うんですよ。

未来に向けていろんな投資や改革ができるように

 私の生まれた1973年は、ベビーブーム世代最多の209万人が生まれた年でした。それが7分の3ですよ。7分の3と言われてもピンとこねえよ。まあ要するに半分以下ってことです。そんな人の数で、高齢者は対策しなきゃいけない、先端教育は続けていかなくちゃいけない、産業力は維持したい、地域経済も回したい、とやるべきことはたくさんあります。でも、人がいきわたらない限り、何かを諦め、何かを選択していかないといけません。そうでないと、ずっと若者は車離れしたり、職人離れしたりという「○○離れ」を続けることになり、地方や中小企業には人が集まらず、擦り切れるように駄目になる分野が生まれてしまう。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 やはり、社会的コンセンサスとして、いままでの社会はいままでのようには続けていけない状況になったのだ、少なくなった子どもをもっともっと大事に育てて次の時代の日本に資する社会変革をしないといけないのだ、と言い続けないと駄目なんだと思いますね。

 それは、独身者や年寄りや地方は単に切り捨てろということではなく、また、コスパで子どもを儲ける儲けないという話でもなく、もう少し未来に向けていろんな投資や改革ができるような社会にしていこうという議論をちゃんとやらんといかんのだろうと。それが、戦後一貫して続いてきていた右肩上がりの社会制度からの脱却であり、新たなる日本が迎える「撤退戦」をどうデザインするかに繋がるのではないかと私は思っています。

INFORMATION

 ついにこの日が来てしまった……。文春オンラインの謎連載、特にタイトルがあるわけでもない山本一郎の痛快ビジネス記事が待望の単行本化! 現在、Kindle Unlimitedでも読めます。

2019年5月15日発売!!

 その名も『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』。結婚し、出産に感動するのもつかの間、エクストリーム育児と父父母母介護の修羅を生き抜く著者が贈る、珠玉の特選記事集。どうかご期待ください。

子どもの「いる人」と「いない人」の分断を起こさないために

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー