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楽しむことに「不謹慎」という意見がぶつけられていたあの頃 

 そんな事情を思うと、かつての自分であったら申し訳なく、心苦しくこの日を過ごしていたと思うのです。実際に2011年当時はそんな空気もありました。野球や大相撲、サッカー、音楽コンサートなどなど「本当に今、コレをやってもいいのか?」「するべきことはコレではないのでは?」と悩み、自問自答しながら、観衆もエンターテナーたち自身も過ごしていたように思います。楽しむことに「不謹慎」という意見がぶつけられるような日々。それは強い説得力を持って心を押さえつけるものでした。

 とは言え、生きるためには仕事をしないわけにはいきません。エンターテナーは人を楽しませるのが仕事です。少しずつ、元気な人は笑ったり楽しんだりしようじゃないか、元気がない人にも可能なタイミングで楽しんでもらおうじゃないか、そんな雰囲気に変わっていったように思います。

 そして、サッカーなでしこJAPANのワールドカップ制覇や、東北楽天ゴールデンイーグルスの優勝・日本一、フィギュアスケート羽生結弦選手の五輪金メダルといった、スポーツを通じて「人は元気を得られる」ということが改めて強く認識されていきました。かつて阪神・淡路大震災の際にはプロ野球・オリックス・ブルーウェーブが「がんばろうKOBE」を掲げて戦い、人々に元気を与えたように、スポーツにはとりわけそういうチカラがあるのだと。

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 もちろんエンターテインメントは命や安全に優先するものではありません。ただ、生きてさえいれば幸せというのも違うでしょう。食べて寝ることは大切だけれど「何のために」という目標や意味がなければ不十分なのだという認識が広まっていった。そのとき、エンターテインメントが生み出す楽しいなぁという気持ちや、また頑張ろうというやる気は「復興」とも決して無関係なものではなく、むしろそういった時間を守ること、取り戻すことにこそ「日常」を守るというもうひとつの戦いがあるのだ――そんな感覚を抱くようになりました。

 日本VSスコットランド戦の会場となる横浜国際総合競技場は、近くを流れる鶴見川の氾濫を防ぐための遊水地に建っています。有事の際は、スタジアムの1階部分は水に浸かり、周辺の公園とともに水に浸かります。そうすることで下流域への水害を防いでいるのです。そのような場所に建つスタジアム、いかに「想定していた事態」であったとしても、本当に試合が開催できるのかは当日までわかりませんでした。