令和になって、今や鉄道も自動運転の時代が目前である。すでに一部の路線では自動運転が導入されているし、近い将来あらゆる路線で自動運転の列車が走るようになりそうだ。なんだかワクワクするような、新時代のお話である。が、そうした中で、ハイテクの自動運転とはまったくの対極、究極のアナログの列車も人気を集めている。究極のアナログ列車とは、なにか。そう、蒸気機関車である。
SLの運転は電車とはまったく違う?
自動運転とは行かずとも、最新の電車ともなればかなりの部分がコンピューターで制御されていて、運転操作もだいぶシンプルで楽になっているという。それに対して、蒸気機関車はコンピューターなどとはほとんど無縁のアナログ列車。いったい、どのようにして運転をしているのだろうか。それを知りたくて、東武鉄道の下今市駅近くにある下今市機関区を訪れた。この機関区では2017年8月から「SL大樹」という列車を走らせている。話を聞かせてくれたのは、そこでSLの機関士たちを束ねる運輸科長の眞壁正人さん。やっぱりSLの運転は電車とはまったく違う?
「そうですねえ……。よく言うのは、『電車は運転する、SLは“動かす”』ということ。もうぜんぜん別物ですよ」
そもそも大きく違うのは、乗務する人数。電車だったらひとりで運転台に座るが、SL大樹では3人乗務が基本だという。ひとりが運転台に座ってさまざまなハンドルを操ってSLを動かす機関士。残る2名がそれをサポートする機関助士である。
「機関助士のうち、1人が石炭をくべる仕事をしますね。もうひとりが機関士とは反対の右側に座って前方確認とかをするんです。だからその3人のコンビネーションが大事になってくる。お互いのことを考えながらやらないと。機関士が好き勝手に蒸気をいっぱい使っていたら助士は苦労するし、逆に助士が機関士のことを考えないでどんどん石炭をくべていたら圧力が上がりすぎて安全装置が働いてしまいますから。それに、同じようにやっているつもりでも機関助士によって圧力の作り方が変わってくるんですよね。だからお互いに相手の特徴を把握しながら、相手のことを考えて。そういうのは電車の運転では絶対ないところですよね」