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 さらに、既存の機関車のメンテナンスも楽な作業ではない。SLは火を焚いて高温の熱で蒸気を生み出す。そのため、運行していないときでも絶えず火が入った状態を保っている。運行のたびに新たに火を入れることもできるが、そうすると缶があたたまるまでに4時間ほどかかることもあるし、温度差で鉄が収縮して不具合を起こす可能性も出てくるという。そこで検査などのタイミングを除いて火を絶やさないのだが、当然そうなれば24時間体制で火の番をしなければならない。

「あとは修繕も大変なんですよね。なにせ古い機関車ですから部品ひとつとってもすぐに手に入るようなものじゃない。我々は乗務を担当する運輸科ですが、下今市機関区には車両科もあってそちらでメンテナンスをしています。同じ職場ですから日常的に情報交換をして機関車の状態を伝え合いながらきめ細かくやっている。部品を削ったりする作業もウチのスタッフができるようにしているんですよ」

車両科が部品をミリ単位で調整する
走らせていない日もメンテナンスは欠かせない

「25kmで石炭0.5トン、水3トン」それでもSLに力を入れる理由

 SL大樹は現在1日3往復。1往復で24.8kmを走る。1往復で石炭は0.5トン、水は3トンほど使うという。さらにメンテナンスの苦労や乗務員の育成にかかる時間も考えれば、お世辞にも効率のいい乗り物とは言えないだろう。にもかかわらず、新たな機関車を導入してまでもSLの運行に力を入れる東武鉄道。簡単にできることではないだろう。それについて尋ねると、眞壁さんから「鉄道魂」という言葉が返ってきた。

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「鉄道はもちろん安全第一ですよね。その安全は人が作るもの。安全第一を絶対的な基準として、技術を磨いてさらにおもてなしも磨いていく。今ではなかなか使われなくなっている技術継承にも役立ちます。そしてこうやって安全を作っていくという、鉄道魂を改めて認識するきっかけになっていると思います」

 鉄道にも自動運転の時代がやってこようとしている今だからこそ、運転からメンテナンスまですべてが手作業、人の力が欠かせない蒸気機関車を走らせることに意味がある、ということなのか。

 眞壁さんは「SLは運転台の3人だけで動かしているわけではない」と強調する。実際、SL大樹には機関士や機関助士だけでなく車掌や車両係、日光市観光協会のSL観光アテンダント、車内販売やフォトサービスのスタッフなど多いときには12名前後が乗っているという。さらに日常的に機関車や客車の保守を担う人がいる。これだけの人のチームワークで蒸気機関車が走る。これこそが“鉄道魂”の原点なのかもしれない。

 

写真=鼠入昌史