「なにかきっかけがあってわかるようになるということでもないんですよね。ずっと音の違いなんてわからなかったのが、気がついたらわかるようになっている。SLは1年やったら1人前とかそういう世界ではないですからね。いつまでやっても“極める”というのはない。ここまで奥深いものは、鉄道の世界でもそうそうないと思います」
朝方3時の試運転での「思いがけない出来事」
そんな眞壁さん、2017年5月に東武鬼怒川線で初めてSLが試運転を開始したときに運転台に座っていた。まだ営業時間帯の試運転はできず、朝方3時ごろの試運転だった。
「そんな時間だから見に来る人もいないだろうと思っていたんです。でも、実際に走ってみたら沿線に地元の方々が出てきてくれて、手を振ってくれた。電車の場合はそんなことまずないですからびっくりしました。蒸気機関車というのはそういう乗り物なんだなあ、と」
東武鉄道がSLを導入したきっかけは、「鉄道産業文化遺産の保存と活用、日光・鬼怒川エリアの観光活力創出による地域活性化、ひいては東北復興支援の一助となること」だそう。鬼怒川線は終点の新藤原駅から先の野岩鉄道線や会津鉄道線とも直通運転を行っており、首都圏と福島県会津地方を結んでいる。東武鉄道では「課題はあるがゆくゆくは会津までのSL運行も考えたい」という。さらに、現在は新たにC11形蒸気機関車1台を購入し、2020年冬を目標に復元作業に取り組んでいるところだ。現在走っているC11形は以前よりJR北海道で走っていた“動態保存車”だが、復元に取り組む新しいC11形は“静態保存車”。つまりは長く動かしていなかった車両を“復活させる”というなかなか途方も無い作業である。