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「背中で感じろ」SL運転の極意

「お客さまがどれだけ乗っているかによって、ブレーキを掛ける量を変えていきます。電車だったらお客さまがどれくらい乗っているかもコンピューターが計算してくれるんですが、SLはそれも全部自分でやらないとダメですからね」

 また、機関車が客車を牽引する列車の構造上、ブレーキは列車全体に同時に掛かるのではなくて、機関車から最後尾まで時間差で掛かっていく。その際のブレーキの効き方なども把握しながら駅ではピタリと停止位置に止めなければならない。まさに職人技なのだ。

「止めるときには外を見ていないといけないので、ハンドルは見ていません。だからどこにどのハンドルがあるのか、身体で覚える必要があります。もちろん機関車の調子も感じながら。私は指導してくれた方には『背中で感じろ』と教わりました」

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停止させるとき、機関士は左の窓から外を見る
現在走っている「大樹」=C11形は以前JR北海道で走っていたもの

訓練のため、1年間秩父鉄道で修行

 現在、下今市機関区には運輸科長である眞壁さんを含めて機関士の資格を持つ人が5名所属している、その他に機関助士の資格保持者が10名(うち2名がディーゼル機関車の運転も担当)。ただ、東武鉄道がSLの運行を始めたのは2年前。そのため、SLの操縦免許(甲種蒸気機関車運転免許)の資格を取得するために他の事業者に出向して訓練を積んだのだとか。眞壁さんの場合は、「SLパレオエクスプレス」を運行している秩父鉄道で約1年間指導を受けた。

「SLはボイラーなので、まずボイラー技士の資格もとりました。秩父鉄道ではまず貨物列車を牽く電気機関車の運転をしました。そこで機関車とはこういうものだということを学んで、学科講習を経て実際に蒸気機関車の技能講習でSLを乗務しました。2名で出向していたので、往路で運転したら復路は石炭をくべる、という感じでしたね。それぞれ指導の方が横について、『ここくべて』と指導されました。最初は何がダメなのかよくわからないんですけどね。初めて運転したときは、自分で操作しているつもりでも実際には機関車のほうに操られていると、そういう感じでした」

秩父鉄道に約1年間出向し、SL運転の指導を受けたという

 “五感で運転する”“背中で感じる”と言われても、その職人技の域にはそうそう簡単には達しない。訓練を繰り返すのみ、というわけだ。