「ちょっとそこのおじさん! 早く中に入ってくださいよ!」
司会の声を受けて会場を埋め尽くしたおよそ150人の観客が振り返ると、そこには「将棋の強いおじさん」こと、木村一基王位が少し照れ臭そうに立っている。大きな拍手と歓声を受けながらプロレスラーの登場シーンのように登壇した木村王位が、「王位になってこのイベントに出られてよかった」と話すと、フロアには万雷の拍手が響き渡った――。
木村王位が、タイトル獲得後初めて登場
10月6日の日曜日。渋谷のイベントスペース「LOFT9」で行われた「観る将ナイト2019」は、観る将ファン向けに企画された異色の将棋イベント。この直前の9月26日には、木村九段が豊島将之王位から初めてとなるタイトル「王位」を奪取。観る将ファンの間でも絶大な人気を誇る木村王位が、タイトル獲得後初めてイベントに登場するとあって事前から大きな注目を集めていた。
第1部では、「観戦記者のおしごと」「“棋譜コメ”ソムリエ選手権」などの企画が行われた。このレポートでは、木村一基王位、遠山雄亮六段、漫画『将棋めし』の作者である松本渚さんが登壇して大いに盛り上がった、第2部トークショーの模様をお届けしよう。
木村王位は、冒頭で乾杯を促されると「お茶じゃないだろうね」と軽いジャブ。ビールジョッキを片手に、遠山六段と集まったファンの「おめでとう」コールで乾杯した。
王位獲得後の記者会見で泣いたこと
木村 王位になってこれだけ多くの人の前で話すイベント初めてなんですが、やはり王位戦の最終局のことを思い出しますね。あのときはファンの方が多かったんですよ。終局後の大盤解説会でも、何局も来ていただいた方がたくさんいて、そういった人を見ると泣きそうになるから見ないようにしていたんです。けれども、記者会見のときに泣いちゃって……。その泣いちゃった姿を撮っているシャッター音がいちばん大きかった。
(会場笑い)
遠山 記者のみなさんも、泣くのを待っていたんでしょうね。
松本 あれ、もらい泣きした人もたくさんいたでしょう。ねえ、みなさん。
(会場から拍手)
木村 決して泣くまいと歯を食いしばっていたんですがダメでしたね。歯を食いしばっても、泣くときは泣きますね。
遠山 でも、こうしてタイトルも取られて、あとは何で泣くんだろう?
木村 (タイトルを)失ったときに泣くんじゃない。
(会場爆笑)
木村 今回はほんとうに応援してもらったのを感じていて、本当にありがたかったですね。ただそれは、今までタイトルを取ったことがないというのが理由なんですよ。だから来年の今頃は「木村はそろそろいいんでねーの?」って半分くらいの人はなるでしょう。
松本 いやいや、そんなことは(笑)。