週末の夜。冴えない中年スポーツライターは取材から帰ってきて、小田急線鶴川駅のホームに降り立つ。そして少しがっかりする。
「よそのクラブのユニフォームか…」
鶴川はFC町田ゼルビアにとってスタジアムから練習場、トップチームの事務所、アカデミーの事務所とすべての最寄駅。そんなお膝元で、他クラブのユニフォームを本当によく見る。
もちろん「市民なら町田のクラブを応援しろ」と押し付けるつもりはない。ゼルビアがJリーグ入りしたのは2012年シーズンで、第三者から見れば新興勢力だ。
四方をJクラブに「包囲」されている町田
町田は四方をJのホームタウンに「包囲」されている。南の横浜F・マリノス、北の東京ヴェルディはJリーグのオリジナルメンバーで、東の川崎フロンターレはJ1を2連覇中。J1の首位を争うFC東京も東京都をホームタウンとして設定している。サポーターは一度好きになったクラブを簡単に捨てない。たまに足を運んでセカンドクラブとして応援してくれれば、とりあえずは大助かりだ。
ゼルビアは少年サッカーから「ボトムアップ」でプロになった珍しい存在だ。源流たるFC町田は「市のサッカー協会が運営する少年サッカーの選抜チーム」として出発している。ただしこの街の少年サッカーには、FC町田と別の流れもある。例えば町田JFCは小林悠(川崎)らを輩出している有力クラブだ。町田市の人口は43万人だが、ゼルビアはトップもアカデミーもまだ足元を固められていない。
「FC町田トウキョウ」という新名称案で紛糾
筆者が2012年から取材しているこの小クラブが世間を「お騒がせ」した。2018年に株式会社ゼルビアはサイバーエージェント社の傘下に入っている。親会社の総帥でもある藤田晋氏が11日、サポーターミーティングに出席。成長戦略とリブランディングについて発表を行った。
「FC町田トウキョウ」の新名称とロゴ、マスコットの案は9月上旬から周知の状態になっていた。商標登録は公開情報で、今の時代はすぐ拡散される。心の準備ができていない状況で「漏れてきた」情報は人を不安にする。
11日のミーティングは紛糾した。藤田オーナーと会長、社長が出席し、サポーターに正面から向き合った姿勢は称賛に値する。YouTubeで内容を公開するオープンな姿勢も素晴らしかった。
ただ最初の発言者から新名称に対する「クソダサい」発言が飛び出し、場内は一気にヒートアップ。涙を浮かべながらクラブへの愛を訴えるサポーターもおり、対立構図が印象付けられた。