「お前は毎回銃口が傾いているな」ではダメ
――その癖の矯正をしつつ、動きも身体に覚えさせていくという作業が新人隊員には待っているということですね。ミリ単位の動きなど想像もつかないのですがどうやって身につけているのでしょうか。
「最初は簡単にはできないですよね。訓練して、怒られて注意されて、それを積み重ねてだんだんだんだんできるようになってくる。数年でマスターできるとか、そういうものではありません。儀仗審査をクリアして隊員になったからといってもまだまだ練度は低いですから。1個小隊は9人ずつ3列に分かれて並ぶのですが、練度が高い隊員が最前列に立つことになっています。だからみんなそこを目指して技量を磨く。そのためには、訓練のときに同じようなことを言われていては話にならない。『飯田、お前は毎回銃口が傾いているな』ではダメなんです。前回の訓練で言われたことを、次の訓練では意識して直していかないと」
――先輩からの教えもあるのでしょうか。
「もちろん教えていただきますが、先輩によっても教え方が違うんですよね。自分ができないことを先輩に『どうすればできるようになりますか』と聞いて、教えてもらったとおりにやってもうまくできない。だけど他の先輩に聞いたらしっくりくるとか。そういう経験を繰り返しながら練度を上げて、自分流を作っていくというところでしょうか。そして教えるときにもそれが役に立ってくる」
「零細時間」で自分をどう磨くか
――なるほど。そうした地道な努力の積み重ねがあのぴったり揃った儀仗につながっているわけですね。技量を磨くためには自分の時間を使った“自主練”みたいなこともしているのですか。
「訓練の時間以外では武器を勝手に使うことはできないので、訓練時間の合間にある零細時間だけですね。全体での訓練だと他の人と合わせることになるので個人の技量を上げる時間はない。ですから、零細時間を活用して個人練習をするわけです。先輩に見てもらう人もいますし、大鏡の前で自分の世界に入って黙々と動きを確認している人もいる。その零細時間で自分をどう磨くか、そこで大きく変わりますね」
――訓練の合間の限られた時間での自己鍛錬で個人の癖などを直していく。そうして練度を上げていく。集中力も必要そうな印象ですが、そもそも訓練は毎日やっているのでしょうか。
「いえ、基本的には儀仗が決まって本番の3日前からです。1年中儀仗訓練及び本番をやっているのでみんな練度が高い隊員たちばかりですから、3日あればすぐにできるようになりますよ。訓練時間は午前の2時間ほど。ただ、最初から全体で訓練するのではなくて、まずは小隊の中の班で訓練をして、それがうまくいったら小隊、その後に中隊長の指揮下で全体の訓練をする。本番の予行は最後です。ですから、まず大事になるのは各班の班長。しばらく儀仗の間隔が空いていると感覚が少しズレていることもあるので、そこをポンと引き出していくのが班長の指導の腕の見せどころなんです」