監督、脚本、主演を務めた映画『108 海馬五郎の復讐と冒険』(10月25日全国公開)。妻の浮気を疑い、復讐として彼女のフェイスブックについた「いいね!」の数と同じだけ、女を抱こうと決意する主人公の売れっ子脚本家、海馬五郎は松尾スズキ自身を思わせる。映画はエロス満載のコメディだが、自身の夫婦観も反映されている。5年前に2度目の結婚をした頃に、この企画を思いついた。
「一度、結婚に失敗していますから、夫婦って何なんだろう、ということは考えますよね。他人同士が契(ちぎ)るということを、何も考えないまま1回目の結婚をしたんですが、結婚には愛情だけではない、もっと具体的な問題がいろいろある。打算的と言われるかもしれませんが、やはり純粋な愛情以外のものがプラスされて結婚は成り立つものなんだろうな、ってことは何となく考えていたんです」
クライマックスのローションまみれの大乱交シーンは爆笑させられたが、実際には大変なこともあったようだ。
「こういう映画を撮ると告白したら、ちょっと妻と揉めたんです(笑)。この世界のことをあまり知らない人だから、現場で男女がヌードで大勢いるなんて想像もつかないので。実際には短期間で一気に撮らないといけないから、色っぽい気持ちになるなんて全くなかったですけど」
海馬の奔放な妻を演じるのは中山美穂。
「シナリオをお渡ししたら『ぜひやりたい』と言ってくださって。このシナリオを読んで飛びついてきてくれた、というのが一番信用できますよね。しかも僕が主役なので、奥さん役はメジャーな人でないといけない、という使命感がありまして(笑)。地方の人は僕のことを知らないだろうし。『いだてん』でもすぐ死んじゃった」
R18指定であり、松尾自身に全裸シーンも多いが、最初から自分で演じることを想定していたのだろうか。
「コメディを専門に演じる人間として、自分が主役で、自分が好きに笑いを取りに行ける役を演じたい、というのが最初にありました。老いる前に、身体が動くうちに1本撮りたいと思ったんです」
コメディ俳優としての矜持を感じる発言だ。大人計画の主宰として多くの舞台を手がけているが、演劇ではなく、映画だからこそやりたいこととは何なのだろう。
「自分の演技が残る、というのはやはり映画をやる意味の一つですね。納得いかない演技が残るのは嫌だけど、自分が監督なので納得いくまでOKしませんから。演劇はチケットも高いし、限られた人しか観られないということもあるので、ハードルが低いところに曝されてみたい。でも自分が面白いと思う喜劇の脚本って、なかなかないんですよね。この映画は18歳以上しか観られない。テレビや飛行機上映も出来ないので、回収率が低いのは痛いですが(笑)。映画くらい不謹慎なことをやってもいいとも思うんです。大人の人が余裕を持って観てほしいですね」
まつおすずき/1962年生まれ。12月からは、芸術監督に就任するBunkamuraシアターコクーン他で2000年初演の「キレイ―神様と待ち合わせした女―」が再々々演される。
INFORMATION
『108 海馬五郎の復讐と冒険』
https://108-movie.com/