『男はつらいよ』のコラボキャップを購入した中国人カップル
今回、私が訪ねた時には、韓国人女性が買物をしていたが、成田空港のタグがまだ付いたままのスーツケースを転がしていた。台湾人の若者はすぐに2階に上がり、ずっと欲しかった日本人デザイナーのTシャツやスウェットを購入。「サムライミュージアム」に行く前に寄ったと言うフランス人の家族は、娘のために錦鯉が作れる折り紙を購入し、5階にあるBギャラリーで展示中の写真を堪能していた。イギリス人家族は息子に携帯ケースを買い、「この店をもっと早く見つければ良かった」と呟いていた。
若いスペイン人女性はガイドブックでビームス ジャパンを知り、開店と同時に入店、「革新的で独特な素材の商品がいっぱいあって本当に好き」と語っていた。ギリシア人の新婚カップルも「とても良いお店」と満足そうにショッピングを楽しみ、中国人の若いカップルは、映画『男はつらいよ』のコラボキャップをお揃いで購入していた。
外国人の中には、はっぴなどを買いたい人もいる。典型的な日本文化を経験したかったり、日本らしいお土産を手に入れるために日本にやって来た人たちだ。そういった人は、ビームス ジャパンの「ジャパン」の部分に興味がある。その場合は、日本的なものを扱う他の店でも満足できるはずだ。だが大半の外国人はビームス ジャパンの「ビームス」に喜んでいる。
ビームスのロゴの入ったTシャツを何枚も購入して帰る顧客は多く、それは、70年代に観光客がパリでルイ・ヴィトンをいっぱい買って帰ったのと同じ現象だ。ビームス ジャパンの店内で外国人の購買行動を見ていると、ビームスというブランドに一番惹かれているようだった。
世界中でビームスが好まれているという事象は一会社の成功には留まらない。日本全体がもっとこの現象を喜んで良いと思う。ビームスの軌跡を日本カルチャーの縮図として捉えると、初期の輸入とコピーの段階から随分離れ、世界中の最良の物品を「セレクト」する段階からも離れ、西洋の物を西洋より上手に作る段階も越え、現在は日本の物を外国ヘ向けて発信し、喜ばれている段階まで来ている。
ビームスは「販売されている商品がクールだからクール」ではなく、「ビームス自体がクール」なのだ。日本自体もそうだ。その昔、日本の「経済の奇跡」が祝福されたが、今の日本の「文化の奇跡」も讃えられるべきことだと思う。
写真=佐貫直哉/文藝春秋
W. David Marx 1978年米国生まれ。東京在住のファッション・ライター。98年インターンシップで講談社のファッション誌に3カ月勤務。2001年ハーバード大学東洋学部、06年慶應義塾大学大学院を卒業。