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経営的に「もうだめだ」と思ったことは?

阿川 これまで、経営的に「もうだめだ」と思ったことはないんですか?

設楽 何回かありましたよ。ファッション業界は、グーッと伸びていったときにパタッと止まるときがあるんです。それで在庫を抱えてしまうのが、苦しくなるパターンですね。うちは初期はメンズ中心だったから、なんとかなったんですが。

阿川 レディース中心だと違うの?

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設楽 違いますね。メンズのファッションは緩やかに流行が来て、緩やかに落ちるけど、レディースはグーッと行って、ドンッと止まるんです。だから、レディースをやってると一気にビルは建つけど、あっという間に「あそこの社長どこに行ったの?」という事態にもなりやすい。ついこの前までフェラーリに乗ってブイブイ言わせてたのにっていう人が、簡単に消えるんです。

阿川 えー、怖~い。

設楽 たとえば、ブーツがものすごく流行って、「ブーツを仕入れろ、倍々ゲームで生産しろ」なんてやってたら、急にミュールが流行って、ブーツが全く売れないなんてことがありますから。

阿川 なんでそうなるんですか?

設楽 女性の場合、ファッションを感性で選ぶ人が多いと思うんですよ。逆に男性は、あんまり気に入らない服でも、説明を受けているうちに欲しくなったりする。女性は、説明はいい、嫌いなんだから要らないって、すごくはっきりしている気がします。

 

阿川 でも感性で選んでるといっても、流行は激しく気にしますよ、女は。

設楽 遅れてると思われたくないというのはありますね。ただ、ごく一部のものすごく早い人たちは、流行になる前にまったく違うことをやってるんですよ。我々は一番早い人のことをサイバーと呼んでるんですけれど。

阿川 ビームスに関する資料を読んでいるときにその用語が出てきました。ビームスではお客さんを何層かに分類してらっしゃるって。

設楽 サイバー、イノベーター、オピニオン、マス、レイターですね。各層がピラミッド状になっているイメージです。

阿川 サイバーとイノベーターの違いというのは?

設楽 サイバーと呼んでいる人は、我々常人から見ると、変わった人で、アーティストに近いんです。それがサイバーなのか、ただの変人なのかは、その人の遍歴を見ないと分からない。たとえば、世の中が数年後、みんな志茂田景樹さんみたいなファッションになっていたら、志茂田さんはサイバーにあたるわけです。そんなサイバーをイノベーターは見ていて、同じように、オピニオンがイノベーターを見ている。最後のレイターは、流行にほとんど興味がない人たちになります。

「半可通は絶対に通にはなれない」

阿川 私はレイターだな。設楽さんはどこに属してるんですか?

設楽 僕はマスの上くらいだと思います。同世代だと流行を早めに掴んでいると思いますが、ファッション業界の中だと全然たいしたことないし。

阿川 そうなの!?

設楽 うん。この階層って実は、江戸時代からあるんですよ。当時はピラミッド型の一番上に「通」がいて、真ん中が「半可通」、いわゆるミーハーですね。そして一番下に「野暮」がいた。で、半可通は絶対に通にはなれないんですよ。それは通を見ているから。自分は最近おしゃれになったと言っても、流れが落ちてきただけなんです。

阿川 要するに誰かの真似をしているだけだと。

設楽 ええ。通の人の「羽織の裏地はこうなんだよ」というのを真似しているのが半可通ですね。ただ、野暮は通になる可能性があるんです。何が来ようと俺には関係ない、これが好きなんだからいいんだよという精神があるから。

阿川 そっか、トップも下も、ある意味流れに乗らない族なんですね。

設楽 難しいのはサイバー相手ではビジネスにならないんですよ。イノベーターくらいまでの動きを見ることで、次の1シーズン、2シーズン後を見るというような感じでしょうか。ビームスでは、マスの上から3分の1までを顧客と想定して商売をしています。