「ユーミンがちょっと先輩で、同期が永ちゃん」
阿川 ははあ。原宿の片隅から始めて43年で、そこまで広がった。
設楽 芸能界でいうと、ユーミン(松任谷由実)がちょっと先輩で、同期が永ちゃん(矢沢永吉)。少し下がサザンオールスターズですね。彼らだって、どんどん出てくる新しい人と対等に戦っているわけじゃないですか。ファッションも同じで、原宿を見てても、新しいものは出てくるけど、ほとんどが一発で消えていくんです。そんな中、43年もやってこれたのは奇跡ですよね。今後5年、10年続けられるかは、不安もありますよ。
阿川 どんな不安? 今の若者にとって、ビームスはもはや老舗の部類に入っているでしょう?
設楽 そう。もう分かってるから見なくていいと思われたらまずいですよね。僕はブランディングって山手線ゲームみたいだと思っていて。
阿川 山手線ゲーム?
設楽 たとえば、今日原宿で服屋さん5店舗を回ろうと思ったとき、頭の中で、この店の次はこの店、というように山手線ゲームをやっているんですよね。その際、最初の3軒はいま評判の店ですよ。うちはそれなりの歴史になったので“いま評判”という訳にはいきませんから、なんとかして残りの2軒に入らなければいけないし、なんだかんだビームスは外せないよねという立ち位置にいなきゃいけないんですね。来たら実は面白いことをやっているんだけど、来てもらわないことにははじまらないので、売れなくても通の人にウケるものも置くし、イベントをやったりと話題を提供し続けています。
筆記テストで90点の人が落ちて、10点の人が採用になったことも
阿川 社内にもサイバー、イノベーターの方がいるとおっしゃっていましたが、やっぱり社員を選ぶときも、なにかのジャンルに詳しいような、とんがった人を優先するんですか?
設楽 もちろん、オールマイティな人がいないと会社が成り立たないので、一定数、そういう人も採りますけど、おっしゃるようにとんがった人を多く採用するようにしています。筆記テストで90点の人が落ちて、10点の人が採用になったこともあります。まあ、往々にしてとんがっている人間の中には社会生活が不得手な人間もいるんですが……(笑)。
阿川 困っちゃうことも……?
設楽 ありますよ。出張申請しないで、出張に行ったりとか。その代わり、自転車にはメチャクチャ詳しいとか。(飾ってある自転車を指差して)そいつがこれを作ったんです。
阿川 ビームスって、自転車も作ってるんですか?
設楽 うちは車からカップ麺までやってますよ。知られてないけど。(袋を取り出して)このラムネは名古屋のカクダイ製菓さんという会社とコラボして作りました。名古屋の地域活性化のために、他にもトヨタさんや、判子のシヤチハタさんなど6つの企業とコラボして商品開発してまして。
阿川 そんなに手広く!?
原宿に9店舗も構える理由
設楽 面白ければ、自然発生的に事業を広げるようにしています。社員がゴルフをやるようになれば、ゴルフファッションを作るし、子どものいる社員が多くなるとベビー服も作りたい、という声が出てきて、扱うようになったり。うちはまず事業計画ありきという会社じゃないんです。そもそも原宿に9店舗も並べる必要ってないじゃないですか。
阿川 近くに同じ店があったら食い合ってしまいますもんね。
設楽 離れたところに出せば、一粒で何度も美味しいビジネスになるんです。じゃあなぜやるかというと、ビームスは同じ人に別のいいものもあるよっていうことを見せたいために原宿に9店舗も置いたんです。
阿川 それが事業計画ありきではないということにつながるんですね。
設楽 いまでこそ、さっき言ったようにゴルフファッションを取り扱ってますけど、僕が昔からゴルフ好きなこともあって、20年以上前に「ゴルフブランドを作ろうよ」と言ったときは、社員は全員反対したんです。ゴルフをやる社員がいなかったから。
阿川 最初は設楽さんの発案だったの!?