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「無断転載対策に『天安門事件』をブチ込め?」日本エロ同人業界と中国翻訳部隊の果てなき闘争

2019/10/28
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「中国人自体が嫌いだと誤解しないで欲しい」

――最近のデモの影響もあって、「香港加油」のコマは特に香港のネット上で好意的に受け取られたみたいです。一言お願いします。

H:もともと、これは違法アップロード対策の実験だったので、政治的な意図は全くありませんでした。なので香港や台湾の人からお礼を言われたことに、正直すこし困惑を感じたのは事実です。

 ただ、それはそれとして僕は民主主義の側を応援したいですし、戦っているのが体制と市民なら、常に市民の側に立ちたいという思想です。自分の思いとしても、香港でデモをしている人たちに対しては「加油」と言いたいかな。

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香港デモ隊に親和的な香港のサイト『闘士工作室』でも本件が話題になった。無断翻訳関係者の掲示板は、内容が荒れまくったようである

――違法アップロード者以外の中国人に対してもご意見をお願いします。

H: 今回の件で、中国の人が僕を嫌いになるならしょうがないし、受け入れますが、僕が中国人自体が嫌いだと誤解しないでくれると嬉しいです。思想や性格の好き嫌いはあっても、国籍で人を判断したりはしないから。作品を正規で買ってくれた中国の人には悪いと思うので、僕にメールをくれたらタブーワードが書かれてないデータを送ります。

中国違法アップロード者は「愛国的」

 ……とまあ、作者が紳士的に対応しているだけに、中国の違法アップロード者の行儀の悪さがいっそう腹に据えかねる話ではある。

 ちなみに筆者が、中国側の同人誌無断翻訳サークルの元構成員である在日中国人留学生・陳(仮名)に取材してみたところ、多くは日本語を勉強中の中国人が腕試しやエロ目的から無償でおこなっている活動のようだ(自前で違法アップロードサイトを持っているような大サークルの場合、バナー広告などで収益化しており有償で翻訳させているところもある)。

ハルカチャンネル氏の対策を「こんなことやっても無駄」と嘲弄する中国無断翻訳部隊。わざわざ反応するということは、逆に対策が効いているのでは……?

「そもそも中国ではエロ表現自体が禁止なのですが、政治のタブーと比べると、検閲はかなりユルい。小規模な範囲でやっている限りは野放しなんです。収益化に成功している大規模なサイトは、潰すとカネになるので、公安が動くときもありますけれどね」(陳)

 現代の中国では若者層ほど共産党統治体制の正しさを疑わない傾向が強いため、翻訳サークルのメンバーにも親体制的な「小粉紅」が少なくない。作中の「香港加油」をわざわざ「中国万歳」に書き換えるような行動も、それゆえにおこなわれたようだ。