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「無断転載対策に『天安門事件』をブチ込め?」日本エロ同人業界と中国翻訳部隊の果てなき闘争

2019/10/28

毛沢東・習近平そっくりなおじさんが……

 同人作品は個人レベルで作られるだけに、著作権侵害の脅威は商業作品以上に深刻だ。特に同人誌(漫画)の場合は画像データ化が容易なので違法流通の対象になりやすい。ご丁寧にも、違法アップロード作品の作中のセリフがすべて中国語に翻訳されている例も少なくない。

 ゆえに同人作家側も防衛に懸命だ。2015年には人気同人サークル「アーカイブ」(@sanada_kana)が中国側での違法アップロードを防ぐために、故意に尖閣諸島や天安門事件を題名にしたエロ同人誌を刊行(注.内容は普通にエロい)。

 さらにアーカイブは2016年、新入社員の女の子が取引先の「キモいおっさん」にいたずらされる内容の同人誌を発表したのだが、こちらではなんと、女の子に迫る「竿役」のおっさんの顔を習近平や毛沢東そっくりに描くというアグレッシブな手法を取った。

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毛沢東と習近平にそっくりなおっさんが新入社員の女の子に迫るエロ同人誌の内容を報じるアメリカのRFA中国語版。それでいいのか……

 こちらの件についても、アメリカの国際ラジオ放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」の中国語版ネット記事が2016年2月11日付で取り上げ、中華圏ではそこそこ話題になった。

 もっとも、アーカイブ側に取材したところ、著作権侵害への対策を明確に意識したのは2015年の尖閣本のみ(そちらも、中国ではなく台湾の違法アップロード者は止められなかったという)。2016年の毛沢東・習近平が登場する漫画については、むしろ話題作りを目的に発表した面もあったそうだが、とにかく日本の同人業界と中国側による著作権侵害のバトルを象徴する作品なのは間違いない。

「香港加油」と作中に書いてみたら……

 ほか、最近になり類似の作戦を試みたのが同人作家のハルカチャンネル氏@halcachanel)だ。同氏は今年10月に発表した新作で、マンガの背景などに「香港加油(香港がんばれ)」「習小近熊平(習近平のプーさん)」「法輪功(中国で禁止されている新宗教団体)」といった、中国国内の政治的なタブーワードをちりばめて中国の違法アップロード者への対抗を試みた。

 だが、中国側もさるもの。なんと、政治的にヤバい言葉だけを消した中国語無断翻訳版が間もなくアップロードされた……。のみならず、やがて「香港加油」を「中国万歳」、「習小近熊平」を「作者司馬(作者のアホ)」、「法輪功」を「法(輪功)のクソッタレ」に書き換えた版までアップする剛の者があらわれた。

左がハルカチャンネル氏のオリジナル版作品、右が中国人によるとみられる無断翻訳版。中央のビール瓶に書かれた「香港加油」が「中国万歳」に変わっている

 こちらの改変版の最終ページにはわざわざ「違法アップロード者が、この手のタブーワードに反感を持つような人間と同じだと思うのかい? 無駄無駄無駄!」(意訳)と、挑戦的な文言が記されていたほどだ。中国側、著作権侵害という法の枠組みを踏み越えている人たちだけに、正直言ってかなり感じが悪い。

 日本の同人界隈と、中国側の無断翻訳・違法アップロード者との戦いは熾烈である。以下、インタビューに応じてくれたハルカチャンネル氏(以下、H)の談話も紹介しておこう。